さんまパーティの一日
昨日は、さんまパーティであった。
パーティと言っても、さんまは2匹しかなかったので、実態は、友人を一人、家に呼んだだけである。
そんな「さんまデー」。主役はもちろん、この方、大治郎クンである。
まずは、朝の出来事。
その朝、ヨメは朝ごはんにいちゃもんをつけた。
ただし、今回は私の方に落ち度があるので、ヨメを責める気はない。吝嗇な家主は、昨夜の残りごはんを、こっそりヨメの皿に乗せて、増量を試みたのである。
可哀想に、ヨメは朝から食べる気満々であったのに、皿に鼻を近付けてフンフンにおいを嗅ぐばかりで、床をカキカキしつつ皿の周りをうろうろしていた。
やっぱり、バレたか。
こりゃ悪かった、と、残りごはんを取り除いてみたのだが、においが移ってしまったのか、ヨメは相変わらずカキカキしていて、食べようとしない。
その間に、ダメは自分のウェットを食べ終わり、カリカリその1も平らげて、おかわりを目で要求してきた。
「ムムちゃん、昨日のやつはもう取ったから、これ食べなさい。」
と、私はヨメを説得しつつ、ダメの皿に、カリカリその2を入れてやったのだが。
ヨメはそれを見て、ダメの皿に顔を突っ込もうとした。
ヨメは最近、そういう強奪行為を、する。
そんなときはいつも、家主がヨメを排除すると、ダメは安心して食べ始める、のであるが。
今日に限って、ヨメを排除しても、ダメはカリカリに口をつけようとしない。
明らかに、ヨメに遠慮しているのである。
自分だけ、おいしいごはんをもらってしまったことに、引け目を感じるのか。
その証拠に、家主が遅ればせながら思いついて、ヨメに「ふりかけ」(ウェットフードの上にカリカリを乗せてやること)をしてやり、ヨメが自分のごはんを食べ始めると、彼はようやく安心したように、大好きなカリカリその2を食べ始めたのであった。
ああ。
ダメちゃん。
キミって奴は、どこまでお人好し(お猫好し)なんだ。
と、いう話を、夕方、職場の猫仲間にした。
「それはもう、猫ではありませんね。」
天竜さんは、あっさりと言い切る。
「ダメちゃん、もう、人間になった方がいいんじゃないですか。」
台詞だけ見ると、ダメはすでに見放されているかのようであるが、実は、天竜さんは、ダメに猫萌えしてくれている。
「ハンサムだし、優しいし、太ってなければパーフェクトですよね。」
とまで、言って下さる天竜さんである。先程の台詞も、褒め言葉であると受け取りたい。
でも。
実際に、ダメが人間になったらと思うと…
…やっぱり、ヤダ。
そりゃあハンサムで、優しいだろうけど、鬱陶しくて、とても一緒には暮らせないですよ。
友達にしておくにはいい人だが、カレシにはちょっと…ってやつ。
だいいち、ストーカーだし。
嫉妬深いし。
話は続いてさんまパーティのことに及び、いいなあ、さんま、秋だよね、というコメントの後に、
「でも、さんまなんか焼いたら、猫たち、騒ぐんじゃない?」
と、別の先輩が言う。
そういえば。
一昨年は、アタマを盗まれたのだった。
ただし、ダメはさんまの頭を食べることができなかった。前歯が無いためだろうか、どうしても、飲み込める大きさに噛み切ることができなかったのである。
ダメがギブアップしたさんまの頭は、ヨメがバリバリと平らげた。
と、いう話を、夜、家にやってきた友人にした。
「それって、ダメちゃん、へなちょこ過ぎない?」
と、友人は静かに言う。
返す言葉は、ない。
静かな口調なだけに、厳しい一言である。
だが、その友人は、なぜかやたらに猫に好かれる人である。また、今までに何度も我が家に来ているので、ダメも覚えて(思い出して)いたらしい。後半は、その友人の横にべったりと座りこみ、撫でられ放題でグルグルしていた。
自然と、話題の中心はダメ。
「ダメちゃん、今度の誕生日で7歳になるのよね。猫の場合、7歳過ぎるとシニアでしょ。もうオジサンなのよね。」
「人間の歳にすると、今何歳くらい?」
「うーん、40過ぎかな」
40代半ばでシニアというのは、ずいぶん早い気もするが、人間だって、40歳過ぎれば介護保険の被保険者になるし、白髪やら老眼やらが出てくるのだから、まあそんなもんなのだろう。
それを聞いて、友人がぽつりと言った。
「ナイスミドル大治郎。」
ナイスミドル大治郎!!
いい響きだ。
それって、
「服は○山だけど、小物は全部ダンヒルで揃えているカンジ。」
と、私。
「バーバリーのコートとか?」
「いや、コートは○山で、マフラーがバーバリー。」
もちろん、○山のタグは、注意深く全部切り取ってある。
自分のお小遣いの範囲で、精一杯、大人の男を演出する、ナイスミドル大治郎。
性格が善良なので、職場の若い女の子(部下もしくは後輩)に慕われていて、ちょくちょく飲みに連れて行って(連れて行かれて)いる。酔った時の口グセは、
「オレみたいなオジサンと遊んでちゃ駄目だよ。」
もちろん、その後には、心の中で「若い男が退屈になるからね」と続く。
が。
彼が知らないだけで、その女の子にはちゃっかりカレシがいる。
そして、ある日、結婚を告げられると、内心の驚愕を必死に押し隠しつつ、
「…花嫁の父の気分だな。」
と、苦笑いでキメる、(そして同時に、ご祝儀は幾ら包めばよいのだろうか、と不安になる)、愛すべきナイスミドル大治郎。
以上は、全て名前のイメージであるが。
実物のダメちゃんにも、けっこうあてはまるような気がする。
うんうん。
へなちょこストーカーより、よっぽど良いではないか。
歳はとってみるものだね、ダメちゃん。
で。
最後に、本題であるはずの、さんまパーティの顛末を記して、エピローグとする。
ダメは私たちの近くで静かにくつろいでいたのだが(ヨメは隣室で影に擬態していた)、私がさんまを食べ終わった時になって、突然、お膳に近寄って来ると、私のさんまの皿をフンフンし始めた。
が。
物欲しそうな視線を向ける相手は、友人の方である。
この、訳の分からない行動の解釈。
まず、私がさんまを「食べ終わってから」やってきた理由。
一昨年、故あって私が彼にさんまの頭としっぽをあげたことを覚えていたので、私のさんまが頭としっぽだけになった時点で「もらえる」と思った。
次に、友人のところにねだりに行った理由。
それでも私は、絶対に、お膳から直接、食べ物をあげることはしない。それを嫌というほど知っているので、ケチな家主より、優しいゲストの好意に訴えることにした。
なるほど。
彼なりに、よく考えた行動ではあると思うが、結局、今回は何も貰えなかったので、作戦は失敗である。
後で考えるに、生さんまを塩をふらずにそのまま焼いたのだから、残った頭やしっぽはあげてもよかったわけだが、まあ、お醤油がついていたかもしれないからね。
そんなわけで。
ダメちゃんのさんまパーティは、空振りに終わった。
だが、彼はナイスミドルだから、苦笑しつつ、やせ我慢してこんなおやじギャグを飛ばすだろう。
「今日のさんまは、北海道産だったからね。さんまは目黒に限る。」
(※一昨年のさんまの頭盗難事件の経緯については、「2009-09-19消えたバラバラ死体」及び「2009-09-24続報」をご覧ください。)
重婚は、禁止です。