ファイト、一発!!

 内緒だけど。
 この頃、ヨメと一緒にお風呂に入っている。
 なぜか知らんが、こいつは風呂が大好き。私が入浴するそぶりを見せると、弾丸ダッシュで飛んでくる。そして、風呂蓋の上に先回りして、私が支度を終えて入ってくるのを、目を輝かせて待っている。
 といっても、一緒に風呂場にいたからといって、共に何をするわけでもない。せいぜい、湯船につかる私と、半分閉じたままの風呂蓋の上に座っているヨメと、にらめっこするくらいのものである。
 まあ、女同士だし、血のつながりはないととはいえ、家族として一緒に生活している間柄だから、別に倫理的もしくは風紀的な問題はないと思う。ゆえに、このこと自体については、これ以上特にコメントしない。
 強いて言えば、猫のくせに、濡れたタイルにお尻をついて座って、濡れるのは気にならないのかな?という不可解さは、微妙に感じているのだが。


 そんなある日…とは今日のこと。
 私がお風呂に入る準備を始めたので、ヨメは例によって張り切って風呂蓋に飛び乗り、期待をこめた眼差しで、お風呂タイムの始まりを待っていた。
 が、お風呂に入る直前に、私は気が変わった。室内干しの洗濯物を取り込み忘れていたことに気がついて、急に、行動がそっちにシフトしてしまったのである。
 待ちくたびれたヨメ。諦めて玄関に遊びに行った頃に、私は洗濯物を片付け終わり、さてお風呂、と相成った。
「ムム、お風呂入るよ」
と、親切にも私はヨメを玄関まで呼びに行ったのだが、これまた例によって、こいつ、私と目が合うと、後じさりして露骨に全身警戒態勢である。
 だめだ、こりゃ…と、私は、ヨメを無視して、さっさと自分だけお風呂に入ることにした。


 と。


 私が歯を磨き終えて、お風呂に入ろうとした直前、ようやく事態を理解したヨメは、通常を上回るマグナム級の弾丸ダッシュで、風呂場に飛び込んできたものである。
 そして。
 私は見てしまった。
 脱衣所と風呂場の敷居を飛び越えようとして、足ふきマットの上で踏み切ったヨメ。しかし、我が家の足ふきマットは、裏面滑り止め付きのタイプじゃなかったんだな。
 ヨメの踏み切りのインパクトで、足ふきマットはずるっと床面を滑走。踏み切りに失敗したヨメは、敷居の直前ですっ転び、危うく頭を敷居にぶつけるところだったのであった。


 さらに。
 今日はヨメにとって、厄日だったらしい。
 湯船につかりながら、私はまたしても見てしまった。風呂蓋の上から洗い場に飛び降りようとしたヨメが、つるつるした浴槽のフチで、足を滑らせるのを。
 いや、もちろん、見ないフリはしてやりましたとも。


 でもね。
 やっぱり言うべきだろうな。


 あのね、ムムっち。
 いかに身体能力の優れたアスリートでも、足場が悪いところでは、やっぱりキケンな目に逢うんだよ。


 今度、テレビでリポDのCMをやったら、こいつに見せとかないとな。
 といっても、後半部分を期待されても困るけど。
 私は助けてやらないし。
 多分、ダメも助けないと思うし。



 (何て非情な。お義母さまはやっぱり、あたくしをお嫌いなんですわ。)
 そう思っててくれていいから。