続・野生の証明
家主は、日常、羽根枕を使っている。
羽根枕にも様々あろうが、家主の愛用は、もう10年以上前に通販で購入した、激安の「布団セット」に含まれていたもの。早い話が、安物である。しかも、相当ヘタっている。
が、このヘタり具合が、ちょうどよい柔らかさなのである。
その後、来客用にと購入した枕は、羽根がぎっしり詰まっていて、縫製もしっかりしており、まあ、良いものだとは分かる。が、私には固すぎる。普段使っているヘタった枕の方が、よっぽど快適だと思う。
要するに、貧乏性である。
その枕も、さすがにヘタりすぎたのか、夏の始め頃から、毎日のように羽根が出てくるようになってしまっていた。
羽根枕は、羽毛枕ではないから、詰め物は「フェザー」、つまり羽根である。羽根だから、真中に芯がある。この芯が、安物ならではの荒い縫い目に刺さり、枕に圧力がかかると、押し出されて根元の部分から飛び出してくるらしい。朝起きると、きちんと鳥の羽根の形をしたフェザーが、布団の周囲に何枚か散らばっている。この羽根が、(もともとそういうものなのか、安物だからなのかは分からないが)いろいろな大きさや色があって、拾ってみると結構楽しい。
そして。
そんなある日、私は気が付いたのだった。
私以上に、それを楽しんでいる者がいることに。
明け方、なにやら布団の周りでガサゴソ騒がしいな、と思ったら。
ヨメが落ちている羽根を玩具に、夢中で遊んでいるのであった。
羽根=鳥ということで、狩猟本能を刺激されるのであろうか。
まあ、どうせ抜け落ちたフェザーなんて使い途もないし、音の出ない、害のない玩具であるから、むしろ私は、落ちた羽根を見つけると、ヨメに投げてやったりしていた。
ヨメは本当に、羽根が好きであった。よく遊んだ。
それなりに、微笑ましい朝の風景である…と、思っていた。
が。
実は、そうではなかった。
結論から言えば。
この枕破壊は、ヨメの確信犯的犯行であったのである。
ある朝、私は、見てしまったのだ。
ヨメが、私の「愛しの枕ちゃん」の角を齧り、飛び出した羽根の芯を咥えて引っ張り出しているのを。
おいっ!!!
また私の愛用物を壊しとるのか、オマエは!!
私に現場を押さえられたことは、ヨメにとって一生の不覚であったらしい。
念のため断っておくが、私は別にヨメを叱りはしなかった。
呆れただけである。
だが。
その日を境に、枕からの羽根の流出は、ぴたりと止んだ。
改めて断っておくが、私は、枕の羽根程度で気分を害してはいない。
問題は、もっと大きな流出問題である。
枕より大きなもの。
そう、問題は、布団だ…。
私の敷布団(ベッドバット)には、お恥ずかしながら、破れ目がある。
破れたきっかけはもう忘れたが、その事件にもヨメが関わっていたことは、ほぼ間違いない。
で、つまり。
何が起こっているかというと…
その破れ目から、布団綿も、流出していたんですよ。
ヨメの枕破壊を目撃した日の前後、寝室の中には、毎日こんなものも落ちていたのである。
ああ、もう…。
猫だもん、鳥を襲うのは無理もないよね。
でも、羊は猫の獲物じゃないと思うんだけどな。
さらに断っておくが、私はヨメに、羊を襲ってはいけないとは言っていない。現場を押さえたわけではないからだ。
しかし。
ありがたいことに、その日から、ヨメはアヒルだけでなく、羊を狩ることも、当面見合わせることにしてくれたらしい。
羽根の流出とともに、羊毛の流出も、現在は止んでいる。
やれやれ(嘆息)。
ともあれ、害獣駆除の成功例ではある。