パブロフの猫たち
缶詰を開封する音や、ドライフードが容器の中でカラカラ鳴る音に反応する猫は、たくさんいる。
我が家の場合、ウエットフードはレトルトなので、うちの猫どもは缶詰の音には反応しない。また、ドライはプラスチック容器の中なので、あまりいい音がしないせいか、これにも反応しない。
最近、気付いたのだが、うちの猫どものパブロフは、「お皿の音」である。
私は洗面台の上で、猫のごはんの盛りつけをする。
先日、空の猫皿を何気なく洗面台に置いたら、突然、魔法のように二頭立ての馬車(ではなくて、猫車だった)が走ってきてびっくりした。
舞踏会に行く予定はなかったので、馬車(猫車)にはお引き取り願ったのだが。
今朝。
掃除をしようとしたら、猫皿が床に置きっぱなしだったことに気がついた。
あ、やば…と思ったが、仕方がない。
そーっと、音をたてないように、皿を洗面台の上に置いたのだが。
やはり、猫の耳は敏感であった。
次の瞬間、黒い顔が洗面所を覗いた。
ヨメである。
私としては、真っ先にダメが走ってくることを予想したのだが、その点、少々意外であった。
そして、私がヨメに「違う!!」ときっぱり拒絶の意を表した直後、ヨメに数秒の遅れをとって、ダメがその場に馳せ参じた。
なぜ、ダメは遅れたか。
位置的に、ダメの方がヨメより少し遠くにいたことは事実である。しかし、到着に時間差が生じるほどの距離ではない。
(その証拠に、前回は二頭立てになって走ってきている。)
ダメはスタートの時点で、すでにヨメに遅れをとっていたのだ。
それは何ゆえだろうか。
私は、以下のように推理した。
ダメは、洗面所にそっと置かれる皿の音を聞いた。
↓
いつもと音が違うので、「ごはんではない」と判断した。
↓
彼の視界を、走っていくヨメの姿が掠めた。
↓
家主がヨメに話しかける声が聞こえた。
↓
家主とヨメは、最近、割と仲が良い。
↓
家主の気が変わり、ヨメはごはんを貰うかもしれない。
↓
今、自分が行かないと、家主は「ダメちゃんはいらないのね」と判断するだろう。
↓
そう思われるのは、心外である。
↓
ヨメだけが抜け駆けしてごはんを貰うのは許せない。
↓
じゃあ、ぼくも行く。
ううむ。
この点について、家主の気が変わることなど、ほぼ100パーセント有り得ないのだが。
彼は過去5年間で、もう既に、いやというほど学んでいると思うんだけどねえ。
いや。
彼は不屈の根性を持つ男なのだ。
何時いかなる時でも、決して希望を捨てない男なのである。
とはいえ。
これほど熟考したにも関わらず、結果的に空振りに終わっている辺りが、ダメちゃんのダメちゃんたる所以である。
(ダメちゃんの影。安野光雅さん風)