トレジャーハンター失格
我が家は家じゅういたるところから輪ゴムが発見される。
ヨメにより、各地に伝播されたものである。
先日、ついに、前人未到の地に輪ゴムがもたらされた。
風呂場である。
(毎度、風呂場ネタが多くて恐縮です。)
もともと風呂場好きのヨメ。風呂場で輪ゴム遊びという夢のコラボレーションにすっかり夢中になってしまった。
平和な家庭である。
そういうわけで。
人間の入浴タイム。私が洗い場で体を洗っている間も、彼女は風呂蓋の上で輪ゴムと戯れていた。
やがて、輪ゴム遊びが一段落したヨメ。出て行こうとして、風呂場の戸を引っ掻いていたらしいのだが、生憎、私は髪を洗っていて、すぐには戸を開けられなかった。
その間、彼女は、戸の前(私の後ろ)で待っていたようなのだが、もともと狭い風呂場である。
一瞬のことでよく見えなかったが、私が開けた戸の隙間から出て行ったとき、毛皮が相当濡れていたのではないか。
何しろ、至近距離で、私は頭からシャワーを浴びていたのである。
こいつは濡れるのが平気なのか。
珍しい猫だ。
(ダメなんか、台所でちょっとしぶきがかかっただけで、ふっとんで逃げるのに。)
一夜明けて。
朝ごはんの後、水を飲みに行ったヨメの様子がおかしい。
水皿の横を引っ掻いたり、水にそっと触っては手を引っ込めたり、何やら落ち着きがない。
ピンときて、覗きにいったら。
…やっぱりね。
彼女の大事な大事な輪ゴムが、水皿の中に落ちてしまっていたのである。
輪ゴム入りの水を飲むのが嫌なのか。
いや。
彼女はむしろ、「あたくしの大事な輪ゴムちゃん」を救出したいのだ。
しかし、自身の力ではなかなかそれを果たすことができず、彼女は水皿を前に、ひたすら途方に暮れていたのである。
浅い方の水皿なので、深さはせいぜい2〜3センチ程度。それなのに彼女は、一体何を難儀しているのか。
しばらく観察していると、ヨメの奴、そっと前足を出して、水の中に差し入れようとするのだが、爪先が水に触ると、嫌そうにさっと引っ込め、それをいちいち舐めて水気を拭き取っている。
そう、水に手を入れるのを厭うているのである。
輪ゴムは、水皿の縁に近いとことにある。思い切ってちょっとだけ、それこそ爪先から1.5センチくらいを水につけて、さっとすくい取れば、それで済む話だ。それなのにヨメは、逡巡しつつ、何度も水を触っては、何もせずに引っ込めるという、無駄な労働を繰り返しているのだ。
おいおい…
アンタ、水が平気なんじゃなかったの?
強いて言えば。
お湯は温かいから平気だけど、水は冷たいからイヤ、ってことなのだろうか。
そんなお嬢様的な発言、アンタには似合わないってば。