サビ猫賛


 写真は、「Cats安暖邸」のサビ猫、エルちゃん。(以下の写真も)
 写真では大きく見えるが、まだ仔猫である。
 本日、またしても安暖邸に行ってきた。
 友人2人を伴って遊びに行ったのだが、私の目当ては、ズバリ、彼女。
「安暖邸にサビ猫が来た」と聞いて、ぜひともお目に掛りたい、と、心ひそかに楽しみにしていたのである。



 私は、サビフェチである。
 あらゆる猫の中で、サビ猫が一番好き。
 日本では「雑巾猫」などという不名誉な呼び名まであるサビ猫。しかし、英語で言えば「トーティシェル」、つまり「鼈甲」なのである。
 一時期、サビは人気柄だと聞いたこともあったが、しかしやはり、現在でも貰い手はつきにくい柄らしい。
 まあ、そうだろうな、とは思う。
 一見、「ヘンな柄」と思ってしまうのは無理もない。
 だが、よく見ると、サビは美しい。ただ、その美しさが、時間をかけて観察しないと分かりにくいだけだ。そして、いったんその美しさに魅せられてしまうと、誰しも間違いなく夢中になる。目が離せない美しさだ。




 大仏次郎のエッセイの中に「雑巾猫」が登場する。収録されていた本のタイトルを覚えていないので、内容を確認することができなかったのだが、だいたい以下のような話である。
 大仏家の猫(15匹くらいいたらしい)の中に、「何がどう混ざっているのか分からないような大雑種」(といったような表現だっだ)の猫がおり、雑巾猫と呼ばれていたのだが、ある日、大仏氏の知人の芸術家(確か洋画家)が、その猫をつくづくと眺めて「素晴らしい」と気に入る。そして、「何であんな猫がいいのかね」といぶかる家人をよそに、喜んで貰っていく。
 大仏氏は、「芸術家だけに、凡人とは違う感性を持つのだろう」と簡単に結論付けていたが、これは、どう考えてもサビ猫の話としか考えられない。そう、サビ猫は、アーティスティックなのだ。
 他にも、よく見ていると、サビ猫は洋画の片隅にさりげなく登場していたりする。印象的なところでは、もう何年も前になってしまったが、ニコール・キッドマン主演の「奥様は魔女」で、ニコール演じる現代の魔女イザベルの「相棒」が、サビ猫だった。魔女と言えば黒猫の方がスタンダードな気がするが、それがサビというあたりがいい。適度におしゃれで、味があって、しかも、見るからに賢そうな猫だった。
 サビはやはり、最先端の柄なのである。



 サビ猫は、美しいだけではない。
 私が「サビ猫は〜である」と聞いたことのある話。
サビ猫は、賢い。
サビ猫は、感受性が強く、気が強い。
サビ猫は、アスリート系で運動神経が良い。
サビ猫には、良い子が多い。
サビ猫には、大きくなる子が多い。
 なお、サビは三毛と同じく、ほとんどすべてが雌である。
 賢くて、感受性が強い。人間に対する甘え方も、ベタベタ型ではないようだ。互いに深い愛情は抱き合っていても、お互いどこか独立している、そんなタイプの子が多いように聞く。
 一見矛盾する「気が強い」と「良い子」が並列しているのは、その辺りの事情であろう。 




 実家で最初に飼った猫、ジンジャーはサビキジであったが、まさにそのとおりの猫であった。猫は人間の次に賢い、という説を、そのころ、私は完全に信じた。
 ただし、猫の賢さとは、知性より情緒の面におけるものであるように思う。ジンは、的確に人の心を読み、また、手を換え品を換え、人間の愛情を試すような猫だった。
 私に対しては、何をしてもいいと思っているようなところがあったが、時々私が本気で怒ると、さりげなくフォローしてくるような抜け目のなさもある。つまり、ほとんど人間と付き合うのと同じ感覚で付き合える猫だったのだ。


 うちには、今、黒サビがいる。このヨメであるが、性格が素直で曲がったところがないのが可愛いが、べったり系のスキンシップは嫌いだし、行動パターンもあっさりしていて、実に合理的な理数系女子である。
 ただし。
 こいつは、残念ながら、あまり美しくない。
 こいつはサビというより、黒猫に近いのだろうか。こいつはこいつで、可愛いには違いないのだが、サビのイメージからはちょっとばかり外れたところがある。
 まあ、運動神経はいいんだけどね。


 そういうわけで。
 エルちゃんの正統派サビネコ的可愛さに、つい心が揺らいだ休日であった。
「うちの黒雑巾と取り換えたい!!」
 と、本猫がいないのをいいことに、叫びまくっていた私である。