まほうの輪ゴム
はじめに。
前回(2月13日)の記事ですが、間違えて、タイトル写真に、1月17日と同じ写真を貼っていました。
今頃気がついたので、遅ればせながら貼り替えました。
失礼いたしました。
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あるところに、ムムという女の子がいました。
小さい時に悪い魔女にさらわれ、それからずっと、魔女の家で暮らしていました。
魔女はとても冷たくて、けちんぼで、いじわるな人でした。
食事は日に二回だけ。おやつなんか、くれたためしがありません。
家からは一歩も出してもらえず、それでいて、ムムが家の中で走ったり、少し大きな声を出したりすると、魔女は顔をしかめて「やかましい!」とどなるのでした。
魔女の家には、同じように子どものころに魔女に連れてこられた、ダメちゃんという男の子がいました。
ダメちゃんは、大きくてやさしい男の子です。
ダメちゃんは、小さなムムをとても可愛がってくれました。ムムはダメちゃんが大すきでした。
ある日、ムムは魔女の台所で、すてきな緑色の輪ゴムをみつけました。
大きさは、ムムの目とおなじくらい。すこし太くて、とてもくわえごこちのよい輪ゴムでした。
それだけではありません。この輪ゴムで遊んでいると、つらいことを忘れ、うきうきと楽しい気もちになれるのです。
ムムはすっかり、その輪ゴムに夢中になりました。
ある朝、魔女はいつものようにお皿に朝ごはんをもりつけて床に置きました。
ところが、魔女が「ごはん!」と呼んでみても、うれしそうに食べ始めたのはダメちゃんだけで、ムムがどこにもいません。
「あのぐうたらヨメめ。何をフラフラしているんだか。」
魔女が悪態をつきながら、となりの部屋をのぞいてみると、ムムがあの緑色の輪ゴムで、夢中になって遊んでいるではありませんか。
ムムは知らなかったのですが、実は、その輪ゴムは、魔女が「しらすぼし」の袋をしばるのに重宝していた、大事な輪ゴムだったのです。
「あの輪ゴムが見当たらないと思ったら、あいつが持っていたのか。手くせの悪い女め。」
魔女の胸は、怒りで煮えたぎりました。
何も知らないムムは、ごはんの時間なのにも気が付かないで、ただ一心に、輪ゴムをくわえて投げては、追いかけていました。
ところが…
とつぜん、輪ゴムはムムの目の前から消えてしまいました。
魔女が魔法を使ってうばい取ったのです。
「あたしの大切な輪ゴム。魔女にとられてしまった。
でも、輪ゴムがなければ、ここの暮らしはつらいことばかり。
そうだ、あたしは、輪ゴムをさがす旅に出よう。」
ムムはそう決心して、歩き始めました。
ついたてのかげも、マットレスのむこうがわも、カーテンのすきまも。
ムムは思いつくかぎりのところに行き、輪ゴムを探しました。
ついには、重い戸にとざされた暗い押入れのなかにも、勇気をふるって入ってみました。
でも、どこにも輪ゴムはありません。
ムムは、悲しみと空腹と疲れとで、もうへとへとでした。
そして、どのくらい歩いたでしょうか。
お腹をすかせたムムの目に、お皿にいっぱいに盛りつけられたごはんが見えました。
「ああ、おいしそう。神様、これがまぼろしではありませんように。」
ムムはよろよろとお皿に歩みより、ごはんに口をつけてみました。
おいしいマグロの味がしました。
「ああ、おいしい。きっとここは天国ね。
神様が、あたしをかわいそうに思って、天国に召してくださったんだわ。」
そう、そこはまるで天国でした。おいしいごはんがあるだけでなく、すぐ近くには大好きなダメちゃんがいて、ごはんを食べるムムを、熱いまなざしで見守っているのです。
そして。
何ということでしょう!!
神様は、ムムの心からの願いさえも、かなえてくれたのです。
ごはんを食べ終わったムムが、床にこぼれたマグロを拾おうと、鼻でお皿を押すと、そこには、長い間探し求めた、あの輪ゴムがあったのでした。
「そうそう、ムム。ごはんのときは、遊んでいないで、きちんと食べなければだめだよ。分かったかい?」
気が付くと、魔女が近くに来ていました。
魔女はもう、怒っていません。
「お前がいっしょうけんめい、輪ゴムをさがした、その努力に免じて、それはお前にあげる。その代わり、今度から、『ごはん!』と呼ばれたら、すぐ食べに来なさい。」
魔女はニコニコ笑っています。
ムムの顔も、喜びでかがやきました。
ただひとり、ムムのごはんを横取りしそこなったダメちゃんだけが、無念そうに空っぽのお皿をながめていましたとさ。
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付記:ムムの酷使に耐えかねて、先日、ついに件の輪ゴムは切れてしまった。以来、彼女はその輪ゴムにすっかり興味を失い、現在は、別の娯楽を求めて、おもちゃばこを漁る日々が続いている。
さらに昨日、輪ゴムはなぜか、私の通勤用のバッグの中から発見された。
どうやら、要らなくなったので、返してくれたらしい。
とはいっても、切れた輪ゴムでは、私とて、返してもらったところで使い途がない。もっとも、切れていなかったとしても、ムムのヨダレが染み込んだ輪ゴムでしらす干しの袋を縛る気にも、とうていなれないのであるが。