しばらく更新をサボっているうちに
アタがデカくなってしまった。
今日現在、家庭用のヘルスメーターでのいい加減計測で、4.2kgである。
といっても、足の太さなどから考えるに、ダメちゃんのようには大きくならないと思われる。
ちょっとがっかり。
いや。
確かにビジュアルの問題はあるが、実際問題として、大きさより深刻なのは、抜け毛の量である。
大きいだけなら気分の問題だ。だが、毛深い猫が二匹いたら、これは明らかに環境問題である。
幸い、アタゴロウは、あまり毛の抜けない猫だった。
今の季節においても、背中を撫でた手のひらにべったり抜け毛がついてくるようなこともない。実にマンション向きの猫であったようだ。
対して。
恒例の夏の怪談、抜け毛大魔王である。
ここ1ヶ月近く、我が家は常に、大魔王が毛玉を吐いた跡だらけ。大魔王の全身は、すでに抜け毛でザラザラしている。うっかり顔をくっつけたりすると、顔中に毛がべったり。
なので、なるべく彼とのスキンシップは避けた方が賢明なのであるが、その辺は大魔王である。抗えぬ魔力により、人間は毎日のように罠にはまり、気付くといつも、語るだに恐ろしいことになっている。
と、いうわけで。
やむをえず、勇を鼓して、大魔王に戦いを挑んだ家主である。
今回の成果。
ちなみに、今回の戦いであるが、思わぬ展開となっていた。
何と、大魔王の部下が一騎打ちに横やりを入れ、戦場を撹乱するのである。
しかも、奴の目的は、大魔王の救援ではない。
奴の目的はただ一つ。未完成のマイクロ大治郎の略取にあるのであった。
こいつ…
ウザい。
そんなわけで。
家主からも、大魔王ことダメおじさんからもウザがられ、孤立無援の中にも健気にしつこいアタゴロウ少年であるが、それでもまあ、しつこい盛りは過ぎたらしい。
ウーシャーギャーが聞こえる回数も、ずいぶん少なくなった。
一時期、育児ノイローゼを心配された大魔王であるが、何とか危機は脱した模様である。
そのガキが、いかにしつこかったか。
以下はその証拠写真である。
今年の5月に撮影したもの。ネタにしようと思って出しそびれた。
当時、アタゴロウ少年は、ダメおじさんのしっぽにちょっかいを出すことに情熱を傾けていた。写真では、キャットタワーに座っているおじさんのしっぽを捕まえようとして、無駄な努力の果てに本気で嫌がられている。(というより、相手にされていない。)
この一連の写真の舞台はキャットタワーだが、例えば、ダメちゃんが好きなこの場所、猫砂の箱の上に座っている時でも、彼はよく、しっぽを垂らしていた。(この写真では後足を垂らしているが。)
あるいは、私が寝ているマットレスの上にダメが一緒に座り、マットレスの脇からしっぽを垂らす。
最近は(暑いので)乗らなくなったが、ビーズクッションの上も同様。
その垂らしたしっぽに、毎度、ガキがちょっかいを出すわけである。
その都度、ダメは唸る。地獄の底から響いて来るような、心の底からの嫌悪感をあらわにした声で。
「アタ、やめなさい!」
と、見かねた私は、アタを叱って引き離していたわけであるが、同時に、
「ダメちゃん、しっぽをしまっておけばいいんだよ。」
と、ダメを諭し、罪作りなことをやめさせようとしていた。
垂らしているしっぽを手で持ち上げて、体の横にそっと置いてやる。
が。
ダメはそれを苛立たしそうに振り払い、またしっぽを垂らす。
そこに、懲りないガキが、またちょっかいを出す。
懲りないオヤジは、また怒りの唸り声を上げる。
以下同文。
しまいには、仲裁役の家主も、
「もう、勝手にしなさい!」
と、キレて立ち去ることになるのである。
一方、乱闘の際、ダメおじさんがやんちゃ少年に仕掛ける攻撃は、未だに「舐め舐め」のみである。
相手が小さいから手を出さない、とか、そういう問題ではなかったらしい。
アタゴロウだって、もう9ヶ月。人間の歳に換算すれば、そろそろ高校生だ。
声変わりなんかとっくにしている。髭だって生えてきているだろうし、エロ本だって買っているかもしれない。
子供扱いして、甘やかしてやるような相手では、決してないのだ。
それでも、ダメは殴ったり噛みついたりしない。あくまで「押さえつけて舐め舐め」を繰り返す。「お前が改心することを信じて待っている」とでも、言わんばかりに。
とにかく、必死に舐めているように見える。
その光景を見るたび、彼の崇高な愛の精神に、心打たれる家主である。
…と。
ここまで書いてきて、ふと、重大な矛盾に気がついた。
冒頭のダメと、中盤のダメのイメージが、あまりに違いすぎる。
これほど崇高な精神を持つ彼が、本当にあの、抜け毛大魔王なのか。
いや、それは絶対に間違いない。
だとしたら――、
抜け毛大魔王の真の目的とは何なのか。
大魔王とは敵のつけた呼び名で、真実の彼は、利己に走り互いにいがみ合う民衆を、愛と正義の社会へと導く、建国の指導者なのではないか。
彼の目的は、理不尽かつ冷酷な家主の専横を制し、差別を撤廃して、真に自由で幸福な猫自身の手になる祖国を建国することなのではないか。
そのために、彼は、自らの身を削って、家主に戒めを与えつつ、この土地が猫のものであることを示そうとしているのではないか。(いや、ここ、アタシの家だし)
そういえば、彼の日課は毎朝のデモ行進であるが、このとき彼は、
「我らに日々の糧を!」
と、その主張を声高に述べるのみで、暴力に訴えるような真似はしない。
かといって、諦めもしない。
家主が起きないと、ずっと枕元で見張っている。そんな粘り強い社会運動家の顔をも持つ男なのである。
彼が何者であるか。
正義の父か、悪の大魔王か。
それは歴史が決めることなのである。
(ネコマヤ・ダイジー)