全田一姑の事件簿 vol.1「女王猫」 

(前略)
 翌朝、全田一は猫山屋敷の食堂で一人朝食をとっていた。一族の者は皆、既に食事を終え、それぞれ朝の日課に精を出している。使用人たちの姿もなく、室内は閑散としていた。
 コーンフレークの皿にスプーンを突っ込みながら、全田一は、家政婦が話してくれた、その朝の惨劇について思いを巡らせていた。テーブルの猫よけは吹っ飛び、郵便物は散乱し…、そりゃあもう、目を覆うばかりの酷い有り様でございました、と、お喋り好きな古参の家政婦は、おそらく誇張も交えて、物々しげに語った。そして、その後に、きっぱりとした口調でこう付け加えた。これは間違いなく、あの新しくお見えになった若奥様の仕業に違いありません…。
 その家政婦の手で、今は元どおりテーブルに敷き詰められた猫よけをぼんやりと眺めながら、スプーンを口に運ぼうとしていた金田一の手が止まった。テーブルの片隅、二つの猫避けの隙間の目立たないところに、何かが落ちている。全田一はそれをそっとつまみ上げた。それは、差し渡し一センチにはなろうかという、巨大な猫の爪だった。
 何ということだ。全田一は頭をバリバリと掻きむしった。俺の目は節穴だった。これはありきたりな物盗りの仕業などでは、決して、ない。この家に伝わる嫁姑の確執を隠れ蓑に、巧妙に仕組まれた完全犯罪だったのだ…(後略)