婚活時代
五月も半ば過ぎの金曜日。
猫カフェ荒らしのSさんと共に、小さなダイニングバーにいた。
ここならば、職場の人と顔を合わせることもない。
四月の人事異動やら担当替えやらで、天竜いちごは転勤し、Sさんとも、顔を合わせる場面が大幅に減っていた。たまに話をする機会があっても、仕事の話のみで、個人的な話をする時間はほとんどない。業を煮やした私は、ほとんど強引に、彼女をこの店に連れ出したのだった。
久々のこと。女子同士の他愛ないおしゃべりがひとしきり続き、ようやく会話が途切れたところで、私は静かに切り出した。
「実はね、Sさん。」
彼女が箸を持つ手を止め、私を見たのが分かる。
その彼女の視線を横顔に受け止めつつ、私は前を向いたまま、二杯目のカクテルのグラスをことりと置いた。
「今日誘ったのはね。私の悩みを、Sさんに聞いてもらいたかったからなの。」
「え、何ですか。三匹目の猫を飼うんですか?」
間髪を入れず、彼女は応じた。
私は金輪際、彼女を盟友と呼ぶのはやめようと、固く心に誓った。
七月。
「猫山さん、山に行きましょう。」
二か月ぶりに会った彼女は、私の顔を見るなり、こう切り出した。
「山坊主が出るからイヤ。」
私は、即座に却下した。
つい最近、別の友人たちと旅行の相談を始めたばかりだ。いくら夏休み期間とはいえ、二回も旅行に行くほどの余裕はない。
「猫のお山ですよ。」
「ああ、そういうことか。」
ようやく、合点がいった。
「猫坊主なら、まあ、出てもいいかな。」
「猫のお山」とは、言わずと知れた、山梨県甲斐市の某お山である。「○庵サテライト」と呼ばれる家庭乗っ取り猫養成所が、そこにある。
二年前、Sさんと私は、そこにボランティア兼「山猫狩り」に行ったのだった。だが結局、そこで出会った猫とは縁がなく、その後、別のお山に忽然と現れたという謎の黒白猫が、現在、アタゴロウと名乗り、我が家で大股おっぴろげのヘソ天生活を送っている。
「平日がいいよね。休めそうな日はある?」
お互いの仕事やらプライベートやらのスケジュールを突き合わせた結果、候補日は「九月十二日」となった。
「連休前だけど…。ま、他に休みを取る人がいないから、いいか。」
次の瞬間、私は思ってもみなかった言葉を聞いた。
「四連休ですよ。新しい猫を迎えるのに、ちょうどいいじゃないですか。」
私は思わず手帳を眺めていた顔を上げ、傍らのSさんの顔を振り仰いだ。その満面に浮かんだ笑みは、もはや悪魔のそれとしか、私には見えなかった。
そして、彼女のスマホのスケジュール帳の、九月十二日の欄には「猫山さん家の三匹目の猫を迎えに行く」と、書き込まれることになる。
私はまだ一言も、そんなことは言っていないのに。
女の子が欲しい、サビ猫が欲しいというのは、アタゴロウが我が家に来た直後から、私が折に触れて言い続けてきた「夢」である。
「お勧めはしないわ。だって、大変だもの。」
三匹飼いの経験のある友人さくらは、冷静に言う。
人間一人に猫三匹。結局、甘え下手の子が割を食うことになる、と。
「でも、あんたのその気持ちも、よく分かるのよ。」
私は、実家時代も含めて、一度に三匹以上の猫を飼ったことがない。だからかもしれないが、私にとって、一匹と二匹はほぼ同じ手間だが、二匹と三匹の間には、それなりに高いハードルがあるように思う。
トイレも増設しなければならない。ご飯を出すときも、両手に一枚ずつ皿を持って同時に出す、ということができない。擦り寄って来る猫たちを、両手でそれぞれ撫でてやる、ということもできない。
それに、さくらの言うとおり、三匹の猫に平等に愛情を注ぐのというのは、やはり至難の業のように思える。
それでも私が、敢えて三匹目にチャレンジしようかな、と考えだしたのは、リトルキャッツのYuuさんのブログにあった、この文章に心を動かされたからである。
1匹飼っている方は、ぜひ2匹目を。
2匹飼っているという方は、3匹目を。
50人の方が1匹ずつ引取ってくだされば
50匹の猫の命がつながります。
一匹飼いの人に二匹目を勧めるのは、良く分かる。
先程書いたとおり、一匹と二匹では、必要な労力はほとんど変わらないし、むしろ遊んでやる手間が省けるくらいである。そして、猫同士が遊んだり、ケンカしたり、毛繕いし合ったりするのを見るのは、一匹飼いでは得られない大きな楽しみと言える。
だが。
二匹飼っている人に「三匹目を」というのは、結構凄い話だ。
リトルさんも、これまでになく大変なことになっているのだろうか。だとしたら、決して飼えない環境ではないのに、さしたる理由もなく、ぐずぐず渋っている自分に、引け目を感じた。
でも。
それでもやっぱり、正直、腰が引ける。どうにも覚悟がつかない。
しかしやはり、口に出した言葉が先回りした。一部の友人たちの間では、「猫山は三匹目を飼うらしい」という話が、すでにまことしやかに囁かれているらしい。
そして、昨日がその、九月十二日であった。
「じゃあね。行ってくるね。」
朝食を終えてすでに寝に入っている猫たちに声をかけ、新しいリュックキャリーを、
(単なるリュックサックだから。)
と自分に言い聞かせつつ背負い、玄関で靴を履きかけたところで、私は思い直して部屋に戻った。
「アタちゃん。行ってくるね。」
アタゴロウの頭を軽く撫でる。
アタゴロウはこのごろとみに、甘え方が激しい。私が床に寝ていれば頭、座っていれば腰、立っていれば脚に、ごしごしと頭をこすりつけてくる。
(こいつ、何か予感しているんだろうか…。)
だが、まさかそれが自分の縁談だとは、さすがに思ってはいまい。
昨夜、絡みついて来るアタゴロウを構いながら、私の脳裏を、ふとこんな思いがよぎった。
(オマエの天下は、今夜限りだ――。)
そう。
もし、新しい猫が来てしまったら、多分、いちばん立ち位置が難しくなるのがアタゴロウだ。これまで、末っ子生活を思う存分、満喫してきた彼は、そのシアワセな日々に終わりが来ることなど、考えたこともないに違いない。
(かわいそうなアタゴロウ…。)
無邪気なアタゴロウへの同情に胸をつまらせながら、私はついでに、近くで寝ているダメの頭もそっと撫でた。
アタゴロウだけではない。
もし新しい猫が来てしまったら、ダメだって愕然とするに違いない。
(えーっ!! また育児!?)
そんな彼の嘆きが、今にも耳に聞こえるような気がする。
「あずさ」は混んでいた。
それでも何とか、隣り合わせの席をゲットした。窓際の席に落ち着いたSさんはご機嫌で、北海道土産のお菓子を、次から次へと取り出しては、私に恵んでくれた。
「いや、でも実はまだ、あまりココロが決まっていないんですけど…。」
「でも、私のスケジュール帳には、『猫山さん家の三匹目の猫を迎えに行く』って、書いてありますよ。」
Sさんが私の新しいリュックキャリーを見降ろして、また悪魔の微笑を浮かべる。
二台目の猫トイレに、砂も入れた。
新しい皿も用意した。
仔猫用のフードも買った。
それでも、どうにも決心のつかない私がいる。
(このまま追い込まれて、既成事実を認めることになるのか…。)
えも言われぬ敗北感が、私の胸に広がった。
(いや。まだ、行ってみなければどうなるか分からないし。)
胸の中では弱々しく運命に抗いながらも、私はもはや反論する気力を失って、リクライニングシートにもたれ目を閉じた。
「お山」に着くと、まずサテライトの隣にあるYuuさん宅に招じ入れられ、お宅の二階にいる仔猫たちを見学することになった。
その最初の部屋。
二段ベッドの上下段に思い思いに群れている仔猫たちが、ミイミイ言いながらはしゃいで押し寄せて来る中、寄って来ない仔猫が二匹いた。
一匹は、明らかに怯えている様子。
もう一匹は、こちらは明らかに無関心な様子。
サビキジである。
「いいねえ、こういう無関心な奴。」
私が手を出して撫でようとすると、そのサビキジ嬢は、おもむろにこちらを振り向き、ちっちゃな牙をむき出して威嚇した。
「きゃあ。シャー言われたわ!」
――も、萌える。
「この子、貰っちゃおうかなあ。」
思わずつぶやいた私を横から眺め、悪魔が会心の笑みを浮かべた。
その子が「リザちゃん」であることを、私は後刻、知ることになる。
さて。
肝心の、サテライトのお手伝いである。
今回は、サテライトの二階の掃除を、手伝わせていただいた。
二階は、主に仔猫と中猫の部屋である。
トイレ掃除。お水の取り換え。それから、床を掃いて、消毒を兼ねた雑巾がけ。
Yuuさんのお宅からサテライトに移る前、Yuuさんは意味ありげに私に告げた。
「猫山さんに貰っていただきたい猫は、あちらの二階にいます。」
あれ?
まだ「貰う」と明言はしていないんだけど!?
まあ、それは仕方ない。「迷っている」と一応断り書きをつけたとはいえ、事前に散々、「サビはいませんか」的な質問メールを送りつけていたのだから。
それはともかく、Yuuさんがアタゴロウの嫁に推薦してくださるというその猫は、一体どの子なのだろう。
サビは、二匹いた。目立つからすぐ分かる。
まほちゃんとミチルちゃん。事前に名前も聞いていたし、ブログで写真も確認してあった。
まほちゃんは、とにかく人懐っこい。寄って来るので思わず抱っこしてしまったら、その後、ずっとストーカーされてしまった。愛嬌があるし、とにかく良い子である。
ミチルちゃんの方は、ほぼ無関心で、あまり動かない子だった。近寄ってよく見ると、鼻水とヨダレで、鼻と口の周りがグチャグチャになっていた。あまり動かないのは、人間に関心がないからなのか、それとも、体調がイマイチなのか。撫でようとするとするりと身をかわして立ち去るので、いずれにしても、あまり愛想はない子かもしれない。
まほちゃんは大きい。ミチルちゃんは小さい。
他にも、サビキジっぽい子もいるし、サビっぽいスモーク(あくまで私の感覚だが)の子もいる。そして、猫見分け能力の低い私は、とにかく猫の数が多すぎて、何が何だか、さっぱり分からなくなっている。
昼食の時に、Yuuさんに訊いてみた。
「Yuuさんが、アタゴロウの嫁にと思っている子は、どの子なんですか?」
Yuuさんは笑ってはぐらかすだけで、答えてはくれなかった。
まほちゃん
(写真はYuuさんのブログからお借りしました。)
二階の二部屋だけだから、それほど時間はかからないだろうと思ったのだが、案外苦戦した。敷物を取り換えたり、物陰にこびりついていた「エ」をこすり落としたりしているうちに、どんどん時間は過ぎる。掃除が終わり、ひと段落したところで、こんどは、お茶に呼んでいただいた。
Yuuさん宅のLDKでお茶を飲みながらひとしきり雑談をした後、タイミングを見て、私は尋ねてみた。
「ミチルちゃんのあのヨダレは、どうしたんですか?」
「歯肉炎ですね。」
やっぱり。
歯茎を見て、ずいぶん赤いなとは思っていたのだ。
「治療はしているんですけど。抗生剤飲ませたり、点鼻薬と、歯茎にもお薬塗ってますし。まだ小さいから、ステロイドは使いたくないんです。」
「歯茎に薬って、嫌がりませんか?」
「そりゃ、嫌がりますよ。」
ハイ。愚問でした。すみません。
でも、ということは、――指を噛まれるんだろうなあ、毎日、毎日。
掃除も終わり、ひと段落しているので、
「二階で仔猫と遊んで行ったら?」
と、Yuuさんに勧めていただいたのだが、
「向こうの子たちと遊びますので。」
と、辞退し、サテライトに戻った。
正直なところ、トイレも床も、また少し汚れてきているし、先程お帰りになった常連のボランティアさんが、「洗濯機がもうじき止まる」とおっしゃっていたのが、気になっていたのだ。
この時点で、私たちは、Yuuさんの言葉の意味するところに、気付いていなかったのである。
ミチルちゃん
(写真はYuuさんのブログからお借りしました。)
サテライト一階で、洗濯機の中に残っていた洗濯物を干し、一階の成猫たちをちょっと見てから、二階の仔猫・中猫部屋に戻った。
改めて散らかった砂と、改めて発生した「エ」を始末していたら、夕方の缶詰を出しに、Yuuさんが上がってきた。
猫たちの食事風景を眺めながら、私は再び、Yuuさんに尋ねてみた。
「ミチルちゃんの状況って、普通に飼うには難しいんですか?」
「難しいです。」
Yuuさんは、はっきりおっしゃった。
「ミチルちゃんは体調に波があって、今は良い方なんです。これまでも度々、病院に連れて行って、注射を打ったり、点滴したりしてる子です。」
たまたま近くを通りかかったミチルちゃんの背中を撫でる。彼女は全く無反応のまま、振り向きもせずに通過した。
「素っ気ないですね。」
「ええ。媚びない子です。」
私は勇気を出して、小さい声で言ってみた。
「好みのタイプなんですけど。」
「もうちょっと待ってください。きちんと治療して、改めて検査をします。そりゃ、どの子にも幸せになってほしいですけど、今はお渡しできないです。」
予想どおりの返事だった。
私自身、内心、無理だなと思わなかったわけではない。私は姉と違って、いわゆる治療行為が大の苦手だ。投薬も、点鼻も、さらに歯茎に薬を塗るとなったら、ほぼ天文学的に無理だ。だいいち、ウチの先生が怒るか呆れるかに違いない。これまで何度、ダメの歯肉炎について、
「本当はお薬を塗ってあげるといいんだけど…。無理でしょ。」
「はい。無理です。(きっぱり)」
という会話を繰り返してきたか、分からないのだから。
だが、Yuuさんは優しく微笑んで、ついに「答え」を教えてくれた。
「実は、猫山さんにお勧めしようと思っていたのは、ミチルちゃんなんですよ。」
つまり、私は、正解を引き当てていたのだった。
そんなわけで。
結局「ただのリュックサック」となった空のキャリーを背負って帰ることになった私達であったが、実は、話はまだ終わっていなかったのである。
Yuuさんが、意味ありげに笑いながらおっしゃった。
「最初に見た二階の子たちの中に、気になる子がいなかった?」
「あ…」
今頃になって、私はようやく、「あの子」のことを思い出した。
「額にオレンジ色の、菱形のマークがある子。」
「マークがあったかは覚えてませんが、サビキジの子にシャー言われました。」
「リザちゃんです。」
そうか。
その選択肢も、あったのだった。
「じゃあ、帰る前に、もう一回見せてあげる。」
ここに至って、私はようやく理解した。
Yuuさんは、本当に、何もかもお見通しだったのだ。
お茶の後に、二階に寄れば?と誘われたのも、その伏線だったわけだ。そこで、私が改めてリザちゃんを見て、やっぱりこの子がいい、と言い出したら、それで決まりだったのである。
Yuuさん宅に戻り、上着を着て荷物を取ってくる間に、Yuuさんが二階からリザちゃんを抱っこして連れて来てくれた。以下は、その時撮った写真である。
「可愛いよねえ…。」
「持って帰る?」
激しく心が揺れた。
が。
これまで散々、ミチルちゃんのことを考えてしまったので、すぐに切り替えがきかない。
「もうちょっと…悩みます。」
「悩んでください。」
もう、すぐ出発しないと、帰りの電車に間に合わない。心は千々に乱れたまま、ヒゲクマさんの運転する車に乗せてもらい、韮崎駅に向かった。
リザちゃん
車の中でも、いつまでも思い悩んでいる私を、Sさんが静かに諭した。
「大事なのはむしろ、どちらがアタゴロウさんと仲良くなれるか、ですよね。」
はっとした。
そうだ。自分のことより、あいつらのためを考えてやらねば。
悪魔も時には、正論を言うのである。
「うーん、そうすると、イメージ的にしっくりくるのは、リザちゃんの方だよね。」
そもそも、アタゴロウが来てすぐに「三匹目」を考え始めたのは、元気すぎるアタゴロウに閉口するダメさんと、もっと遊びたいアタゴロウとのバランスをとるため、アタゴロウの遊び相手に若い猫が必要かも、と思ったのが発端であった。それに、私の「やっぱり女の子が欲しい」という欲張り願望が重なり、「では、アタゴロウに嫁を」という話に発展したのである。
とはいえ、そうこうしているうちに、アタゴロウの暴れたい盛りは、既にピークを過ぎてしまってはいるのだが。
やはり、変に迷わずに、素直にリザちゃんを貰ってくるべきだったのか。
「Sさん、十一月に、三連休って、あったっけ?」
「ありますよ、二回。十月にもあります。」
Sさんは、スマホのスケジュール帳を見ながら、付け加えた。
「全部、私、前の日空いてますから。」
そしてまた、悪魔の微笑を浮かべた。
これで、今回のアタゴロウ嫁取り騒動の話は、終わりである。
それから丸一日が経過した今、私はまだ、思い悩んでいる。
リザちゃんとミチルちゃん。状況から考えれば、やはりリザちゃんを迎えるのが正解だろう。アタゴロウのためにも、それがベストの選択かもしれない。
しかし。
ハンデがあるミチルちゃんを切って、条件的に申し分ないリザちゃんにあっさり乗り換えるということに、どうにも抵抗があるのだ。
それに。
根拠はない。また、大変不遜な考えであることも、Yuuさんやリトルキャッツの皆さんには、大変な失礼であることも承知している。
だが、私は密かに思ってしまうのだ。ミチルちゃんの「体調の波」とやらは、一般家庭の静かな環境の中に置いたら、案外、あっさり落ち着いてしまうかもしれない、と。
だから、そういう子ほど、早く卒業させるべきなのではないか、と。
また、これも根拠はないが、ミチルちゃんの素っ気なさには、
(本当は、この子は甘えたい子なのではないか…。)
と、思わせるものがある。ダメちゃんと同じ匂いを感じるのである。
反面、そうした私のミチルちゃんへの肩入れは、突き詰めていけば、私の変なヒロイズムとでも言うのだろうか、可哀想な子を助けたという自己満足に浸りたいだけの、完全なエゴであることにも気が付いてしまう。それは逆差別であり、ミチルちゃん自身に対しても、大変失礼な話ではないか。
また、あれほど人間の愛情を求めて必死に擦り寄ってきたまほちゃんを、こうした私の、ただのヘソ曲がりから、知らん顔をして見捨てるのか。
選べない。
結局、自分はどうしたいのか。理屈を捨てて直観に頼ろうとしても、肝心の自分自身の気持ちが、全く見えてこない。考えれば考えるほど、余計に分からなくなる。
気持ちと言うより縁だよ、と、友人さくらは言う。流れを見ていれば、自ずとどこかに縁はつながるから、と。
そう。
運命の神様が「ハイ!この猫。」と、どれか一匹、手渡してくれさえすればいいのだ。
そんなことを考えるほど、すでに私は、猫選びに疲れてしまっている。
…って!?
あれ!?
そして、私はようやく気付く。
あんなに何ヶ月も迷っていたのに、いつの間にか、もう既成事実になってしまっているじゃないか。
アタゴロウの嫁取り。