私はハンターの定めに生まれた。
風呂上がり。
洗面所の引き戸を引っ掻く音がするので、例によってダメちゃんが入りたがっているのかな?と思って開けてみると、そこにいたのはヨメ。しかも、戸を開けたまましばし待っていても、一向に中に入ろうとする気配なし。
寒いので、再び引き戸を閉めると、またカリカリと引っ掻く音が。
「何か用?」
と、もう一度開けてみると、どうやらヨメっ子、引き戸と敷居の隙間に用があるらしい。しきりと手を出して、何かを取ろうとしている。
何度か引き戸を動かしてみたが、何も見つからない。しかし、ヨメは全く諦めようとせず、どっかりと敷居の前に陣取っていて、その態度には、「それ」をゲットするまでは梃子でも動かないぞ、という決意がみなぎっている。
この、異様なしつこさ。
猫は時々見せることがある。
ジンも、ななも、りりも、ダメちゃんでさえ、やった。
となると。引き戸の下にいるのは。
・・・・ゴキブリ?
考えてみれば、このヨメは、明らかにハンターの系統である。筋肉質な躰。歴代の猫の中では群を抜く敏捷性と反射神経。そして、自主的に調達する玩具の多様さ。
こいつと暮らすからには、この事態は覚悟して然るべきだった。
この過酷な現実と、いつかは向き合わねばならない運命だったのか。
見ないふりしちゃおうかな。
しかし。
寝てる間に出てきたらと思うと、もっとコワいよね。
うーん、仕方ない。
でもこいつなら、私の悲鳴を聞いて一目散に逃げ出したダメと違って、敢然と敵に立ち向かってくれるだろう。(希望的観測)
えいっ!!!
と、引き戸を持ちあげつつガラリと引き開けてみると・・・。
ヨメはパッと跳びついた。引き戸の下に落ちていた輪ゴムに。
そして、最初から息の根が止まっている獲物をくわえ、意気揚々と引き揚げていったのであった。
ああああ。
腰砕け。
全くひ、人騒がせな。
(あら、お義母さまが勝手に勘違いなさっただけですわ。)
はいはい、悪うござんしたね。