罪を負う男

 

 
 
 帰宅して、玄関の灯りを点ける。
「ただいま」と声をかけても、辺りは静まり返っている。
 いつもなら、リビングに通じる扉の向こうで騒いでいる、ダメの声がしない。
 おかしいな?と思いつつ、扉を開けてリビングに入ってみると。
 ヨメは、いつもの場所にいた。
 ダメは、いない。
 どうしたんだろう。


 リビングの灯りをつけて、ダメのいそうな場所を次々と覗いてみる。
 どこにもいない。
 だんだん、心配になってくる。
 出かけるときに、気付かず、どこかに閉じ込めてしまっていただろうか。
 それとも、外出中に予想外の事故があり、どこかに倒れていたりしないだろうか。
「ダメ!!」
 呼んでみても、声一つない。


 あ。そうか。
 トイレだ、きっと。


 トイレを見に行くと…


 違うものが目に入った。
 
 

 
(本当はもっと散らばっていた。写真を撮る前につい片付け始めてしまったので…)


 と、そこにダメが。
 隣の浴室で水を飲んでいたものである。
 怖い饅頭を退治したから、次はお茶が怖かった、ということか。


 なるほど。
 ハラが減ってないから、家政婦に用はないというわけね。


 と、思ったら、そればかりでもないらしい。


 その後のダメであるが、何だか、クラ〜い目をしている。
 私と目を合わせない。
 私が手を出すと、逃げる。 
 のみならず、私とすれ違う時は、必ず小走りになるのだ。
 明らかに、私を避けている。


 そう。
 叱られると分かっていて、私から逃げていたのである。


 正直なところ、散らばったカリカリを見た時には、
(しまった…)
という気持ちの方が強く、実は大して怒りは感じていなかった。
 しかし。
 親の顔色を見る子供にイライラする母親と同じ。
 顔色を窺ってコソコソ逃げられると、却って
「このワル!!」
と、言いたくなるではないか。


 こうして、ダメが罪の意識に怯えている間、ヨメはどうしていたかというと。
 こいつは、あくまで要領がいい。
 ダメが不興を買っていることを察して、ここぞとばかり、さりげなく私に取り入ってくるのである。
 私が用事をしている横にちょこんと座り、
(あたし、可愛いの)
 という表情をつくって、いかにも「無心な」目でこっちを見ている。
 

 さらに。
 私が風呂に入ると(今日はバタバタしながらさっさと入ってしまったので、ヨメは参加しそびれたのだが)、何と、足拭きマットの上で藤吉郎をしながら、私が上がるのを待っていたのである。
 今は、寒い季節。
 足拭きマットがあったかい。
 幸せ。
 ヨシヨシ、愛い奴。


 いやいや、本当に要領のいい奴だなあ。
 と、思いめぐらしているうちに、はっと気付いた。


 今日、夕飯を欲しがらなかったのは、ダメだけではない。
 ヨメも食べていない。
 ということは…


 何だ。
 オマエだって食ってるじゃん!!
 おいっ!!!


 何というか。


 ひとり無駄に罪の意識に怯えていたダメが、哀れではある。
 
 
 

 
アンタは、堂々としすぎ。