誰でもいいんです
チビであるが、その後も、ダメにくっついてばかりいる。
風邪で調子が悪いのか、知らない環境で警戒しているのか(獣医さんの説)、あるいは、このところお天気がスッキリしなかったせいなのか、どうもイマイチ、覇気のない仔猫で、成猫のダメと一緒になって寝てばかりいる。
朝・晩はビースクッションの上でダメにくっつき、昼間はダメが移動してしまうので、ひとりでこたつ布団に埋もれている。どうやら、潜るのが好きな子らしい。
私のことも、一応、保護者と認識したらしく、近くに寄って来るし、膝に乗せればおとなしく撫でられている。たまには自分から乗って来ることもある。ダメにやきもちを焼かせないように、私の方からはあまり構わないようにしているのだが、それでも、何となく懐いてきたようだ。
私としては、ヨメのように、目が合うとダッシュで逃げるようなのを、内心、期待していたのだが、昨今、そういう面白い猫は減っているらしい。惜しいことだ。
ただし。
同時に、私が嫌なことをする人だということにも気付いてしまったらしく、薬を飲ませたり、点眼・点鼻をしたりしようとすると、当初はされるがままになっていたものが、力の限り抵抗するようになった。
まあ、それについては、当初はあまりの小ささに、壊れ物を扱うように触れていた私が、慣れるにしたがい、ぞんざいな扱いをするようになったから、という事情もある。
午前中。
ぬくぬくとこたつ布団に埋まっていたチビは、怖い家主につかまって、目と鼻に怪しい液体を注がれた。
すっかり目が覚めると同時に、気分を害した奴は、お気に入りの椅子の上で、のんびりと日向ぼっこしているダメを、おあつらえむきに発見したものである。
(写真は暗いですが、晴れて日が当たってます。)
くっしゅん!!
諦めろ、ダメちゃん。子守は汚れ仕事だ。(でも、風邪うつされないでね。)
午後。
母と姉が遊びに来た。
今年はチビが来たばかりなので、私が実家に行くのはやめたのだが、これまでのところ、二匹とも落ち着いているので、まあ(ダメにとっては)知らない人じゃないし、来てもらう方は大丈夫だろう、と、OKしたのである。
して、チビは。
逃げも隠れもしなかった。
奴が最初にやったのは、「姉のジーパンで爪を研ぐこと」だった。
意外に、人見知りしない奴だったらしい。
母と姉は、大喜び。
「久々に見ると、仔猫って小さいわねえ。」
ダメとヨメ、とくに、ヨメは人見知りが激しく、私以外の人にはほとんど姿を見せなかったので、来客に評判の悪いことこの上なかったのだが、こいつは、ちゃんとお客様サービスのできる奴だった。多分、安暖邸と○庵サテライトで、お客様やらボランティアさんやら、たくさんの人が出入りする環境にいたため、来客慣れしているのだろう。
さらに、お客様が来て興奮したのか、我が家に来て初めて、仔猫らしく活動を始めた。
パタパタと走りまわったり、キャットタワーに登ったり降りたり、さらに、キャットタワーの柱にしがみつくようにして、バリバリと爪を研ぐ。
仔猫らしい仕草は、やはり愛らしい。動いていれば、残念な柄も目立たなくて済む。
「残念と言ったら、ムムの方がもっと残念だったじゃない。」
姉はニベもなく言うが、その認識は間違っている。ヨメの場合は、変な柄すぎて、もうとっくに、残念なんてレベルではなかったのだ。
「おもちゃを持ってくればよかったな。」
だが、姉が割り箸の袋を丸めて投げてやると、チビは、追いかけて遊ぶのではなく、丸めた袋をくわえて引っ張って伸ばし始めた。
「遊び方が、間違ってる…。」
姉上。その点でいけば、多分、こいつよりムムの方がお気に召すと思いますよ。
チビを私の膝に乗せると、ゴロゴロ言い始めた。
「やっぱり、飼い主だって、認識しているんだね。」
と、姉が感心したように言う。
母も姉も、いかにもチビに触りたそうなので、そのままつまみ上げて母の膝に移動させると、
やがて、母が眠くなったと言うので、今度は姉の膝に移動させると
しっかり、顔を埋めている。
「ハナミズ、出てない?」
姉がチビの顔を持ち上げてみた。
「大丈夫。きれいだよ。」
それから、冗談めかして付け加えた。
「私のジーパンで拭いたのかもしれないけどね。」
チビは姉の膝で、ゴロゴロ言っている。
「要するに、この子は誰でもいいわけね。」
潜って、包まれて、密着型の甘え方が好き、というだけで、相手は誰でもいいらしい。
そういえば、ダメにくっつきに行く時も、ダメの脇の下やお腹の辺りに、潜るような攻め込み方をしている。
「そういえば、ダメちゃんは…!?」
ああ。
これでまた、ダメの点数が下がる。
ダメの奴、押入れに潜ったまま出て来ないのである。
ヨメと一緒だった時には、見える・ちょっとは触れる、というだけで、「まだマシ」という評価を得ていただけに、“誰でもいいんです”のチビと比較されるのは痛い。
そこで、ふと思いついたことを言ってみた。
「ダメちゃんは、子守に疲れたから、チビの相手をしてくれる人が来たのを幸い、休憩しているんじゃないかな。」
この意見は、姉にウケた。
「そっかあ。ダメちゃん、でも、これからは、エブリデイ子守だよ。」
そう。私は4日からしっかり出勤なのである。
夕方、母と姉が帰ると、ダメはさっそく押入れから出てきた。
お客様がいなくなってほっとしたのか、それとも、子守の責任感に目覚めたからなのか、その辺は判然としない。
しかし。
先に述べたように、ヨメがいた頃は、母や姉が訪ねてくると、ダメも姿を見せ、触らせもしていた。
なぜ今になって、押入れ立てこもり部隊になってしまったのだろう。
本当に、子守に疲れて休憩していたのか。
それとも、相棒がムムだった時は、来客接待の責任感から頑張っていたが、チビがお客の相手をするなら、自分の出る幕じゃないと引っ込んでしまったのか。
それも、有り得るよね。
何しろ、今度の相棒は“誰でもいいんです”なんだから。
見てほしい、このドヤ顔。
てことは、仔猫らしいはしゃぎ方も、来客向けのパフォーマンスだったのか。
子守か、来客接待か。責任感の強いダメちゃんの苦悩は続く。
そんなこんなで、時はもう猫の夕飯時直前。
湯呑茶碗を洗っていると、二匹揃って、台所を覗きにきた。
違います。
誰でもいいんですの猫は、来客時にはたいへん助かるが、飼い主的には、自分にしか懐かない猫の方により萌えるということを、キミは知らない。
ちょうどその頃、姉からメールが届いた。
「家に帰って着替えてみたら、ジーパンのももの辺りに、カパカパになった染みのようなものが…」
やっぱり、ハナミズを拭いていたのだった。
ところで。
このブログは、翌朝、早起きして書いている。
目が覚めて、起き上がりつつ布団をめくって見て、驚いた。
いつの間にか、チビが布団の中に入り込んでいたのだ。
これまで、猫に同衾してもらったことのなかった私は、結構感動した。(ダメもムムもミミさんも、掛布団の上に寝る猫なのである。)
いや、だが。
騙されてはいけない。
こいつは、誰でもいいのだ。
ハナミズを拭かせてくれる相手なら。