サビ猫は逃げる
本日、友人さくらと二人、川崎の猫カフェ「にゃんくる」を訪問してきた。
「にゃんくる」は、ウチの連中の出身保護団体「リトルキャッツ」の猫を扱っている、譲渡型猫カフェである。
実は、私自身について言えば、「にゃんくる」訪問は二回目である。すでに10月初旬、猫好きの先輩と一緒に偵察に行っている。
それがなぜ、1ヶ月も経たないうちに、再訪問しているのかと言えば。
会いたい猫が、いたからである。
その名は「わさびちゃん」。スレンダーにしてスタイリッシュな、黒サビ美女子である。
以下は、最初の訪問の際に撮影した写真である。デジカメを忘れたため、調子の悪い携帯のカメラで撮影したので、この写真からは想像がつかないだろうが、とにかく、美しい女子猫であった。
最初に「にゃんくる」の店内に足を踏み入れた時、思わず目を奪われた。
スタイルの良さも、身のこなしも、黒地にバランス良くオレンジを散らし、胸元に軽くポイントを入れた、その配色も完璧。「にゃんくる」には可愛らしい仔猫が多いのだが、その中で、少し大きめの彼女は、サビ猫らしいスタイリッシュさで明らかに水際立っていた。
そして何より、そのしっぽの配色。真っ黒なしっぽの先が、約1cmだけ、オレンジ色なのだ!
適当にフレンドリーで、適当にそっけない。
理想的なサビ猫だ、と思った。
その日彼女は、玩具の扱いがお上手な他のお客さんと遊んでいたので、あまり接触することはなかったのだが、まあ、それ故の消化不良でもあるのだろう。以後、どうにも忘れ難く、この度、さくらを口説き落として、川崎まで引っ張って行った次第である。
が。
店内に入った途端。
「わさびがいない。」
部屋じゅうの寝ている猫やら潜っている猫やらを確認して回ったのだが、わさびちゃんは見つからなかった。
まだ見つけられないところに潜っているのか、バックヤードで休憩中なのか。
あるいは…、
「あのう、わさびちゃんは、売れちゃったんですか?」
恐る恐る、店員さんに訊いてみた。
店員さんはぱっと顔をほころばせ、さも嬉しそうに答えた。
「ええ、そうなんです!一昨日、トライアルに入りました。」
私もにっこり、
「そうですか。よかったですね。」
だが、心の中では、その瞬間、本日のやる気スイッチがブレーカーからバチンと落ちたことは、言うまでもない。
「また、目の前で逃げられた。」
「また、って?」
「キーゴちゃん。」
キーゴちゃんは、安暖邸にいた隻眼の黒サビ女子である。
あのときは、さくらではなく、猫カフェ荒らしのSさんと一緒だった。確か、夏の仔猫祭りの時だったと思う。
Yuuさんに会いたくて安暖邸を訪れ、ついでに、そのときのお気に入りだったキーゴちゃんのことを尋ねてみると、
「ついさっき、決まりました。」
正にその日、譲渡の話がまとまったばかりだったのである。
ちょっとがっかり。
「だったら、うちのサビ、貰ってよ。いい子よ、そっけなくて。」
半長毛のサビ。数ヶ月前に親子で保護された、若い母猫である。私自身、Yuuさんのブログで写真を見て、かねてから、綺麗な子だなあと関心を持っていた猫であった。
そのときの話では、近いうちに安暖邸に来るというので、楽しみに待っていたら、結局「にゃんくる」に行ったと聞いた。つまり、一回目の「にゃんくる」訪問は、その子に会うためだったのである。
で。
いざ、「にゃんくる」に行ってみると。
「シェリーちゃんって子なんですけど…。」
「ああ、その子なら、『レオン』(姉妹店)に行きました。今は違う名前ですけど。」
そう。今思い出した。ここでも一匹、逃げられていたんだった。
そういえば、逃げられたわけではないが、昨年9月、山梨の「○庵サテライト」を訪問した際に譲渡の予約をしたサビ仔猫の「寿限無」は、譲渡可能な月齢になる前に亡くなり、ここでもひとつの縁が切れていたのだった。
どうやら私は、とことん、サビ猫に縁がないらしい。
キーゴちゃん。安暖邸にて。
「ここまで縁がないってことは、まだ飼うなっていう、神様のお告げだよね。」
私のサビ猫妄想を年がら年じゅう聞かされているさくらは、もはや、微笑むだけでコメントしない。
「まあ、もともと、3匹目を飼う決心がついていたわけでもないんだけどさ。」
「大変よ、3匹は。」
実際に3匹飼いをしたことのある、さくらの言葉は重い。
彼女曰く、
「一人で3匹にまんべんなく愛情をかけるのは大変よ。結局、甘え下手な子が割を食うことになっちゃう。」
「それって…つまり、ダメちゃんのことだよね。」
今でさえ、膝の上に気軽に飛び乗って来るアタゴロウに常に先を越され、大きすぎて膝に乗れないダメちゃんは、椅子に座る私の足元で切ない目をしていたりするのだ。
それに。
3匹のうちの1匹が病気にでもなったら。あるいは、私が人事異動やら担当替えやらで、以前のように残業続きの生活になったら。そんな事態に陥っても、3匹を充分に甘えさせてやれる自信は、やはり、ないと言わざるを得ない。
だが。
そこまで分かっていて、なおも私が迷うのは、もし飼うのなら今のうち、という意識があるからだ。ダメちゃんの歳、アタゴロウの歳、そして自分自身の年齢から逆算して、飼うならあと2〜3年の間に決断しなければ、もう後はないだろう。
このチャンスを逃したら、私は今後、一生サビ猫を飼えないことになるのか。
それは、あまりにも淋しすぎる。
こんなに、サビ猫が好きなのに。
だが、実際には、今のところ、サビ猫の方が私から逃げているのである。
まあ、そんなわけで。
やる気スイッチのブレーカーが落ちたまま、ただまったりと、「にゃんくる」の猫たちと遊んできたわけであるが。
せっかく行って、写真も撮ったので、何枚か掲載してみようと思う。
まず、個人的にツボだったのは、このお方。
何をしているのか。猫好きの人ならピンとくると思うが、要するに、猫ベッドの布地をおしゃぶりしながら、「ふみふみ」をしているのである。
それにしても、この表情。
一体どんな悲壮な使命感で、猫ベッドを踏んでいるのか。
他にも、何枚か。
権力に押し潰される庶民
脱法ハウス
ハート型のなりそこない(きっとどちらかが浮気してる)
虚飾に満ちた生活への不満
そして本来の自分を求めて
文明を捨て、段ボールハウス生活へ
重すぎる愛
それでも訪れる倦怠期
ただ一人真相に気付く主人公
物質的に豊かでも満たされない心
この方はほぼ最初から最後まで寝ていた。最初。
最後。
そういえば、サビ猫って、逃げるはずだよね。何しろ「ニケ」は翼のある女神なんだから。