ついてないけど、困ってるんです。


 
 
 で。
 初夢の件であるが。
「昨日の朝の夢か、今朝の夢か」を追究するのは、やめた。
 というより、敢えて追及しない方がいいという結論に達した。早い話が、「どっちもヤダ」という状況に陥ったからである。
 その、今朝の夢。
 いきさつは分からないのだが、何だか知らないけど、2階の窓くらいの高さのところから、木を伝って地面に降りなければならないはめに陥っている。そのこと自体には、大して恐怖心も感じていないのだが、問題はその木である。
 ムクゲなのだ。
 それも、花盛りの。
 ムクゲなんて、そもそも人間の体重を支えられるような木ではないのだが、そこは夢である。それ以上に、夢の中の私は、別の理由で恐怖にパニクっていた。
 ムクゲなんて。いるいる、ゼッタイ、いる。あいつらが。
 花盛り。季節は夏。そこを、あいつらに触れることなく、下まで降りきることができたら、もうそれは奇跡だ。
 幸い、手袋は支給されていた。だが、私はむしろ宇宙服が欲しい。あいつらに触らないために。
 夢の中の私は、それでも何とか降りきったらしい。
「ついてない?本当?ねえねえ、本当に大丈夫?」
 地面に降りた私は、手足をブンブン振り回しながら、半狂乱になって周囲の人々に救いを求めていた。髪の毛についていないだろうか。襟の中から侵入などしてきていないだろうか。見えないからって、安心できない。だって、あの茂みの中を降りてきて、あいつらが付かないはずがないもの。見えない方が、もっと怖いじゃないの。
――と、いうところで目が覚めた。
 寝汗をぐっしょりとかいていた。
 ああ。
 昨日以上のホラー。本当に、夢で良かった。
 
 

ムクゲ
 
 
 そんなわけで。
 どうも年が明けてから、何かと験が悪い。
 今日は――汚い話で恐縮なのだが、つい先程、猫トイレの掃除中に事故があった。
 ふとしたはずみで、砂の中から収集したそれを、ぶちまけてしまったものである。
 もちろん、猫トイレの外に。
 え…
 あまりの有り得なさに、愕然とした。
 まさかね。夢でしょ、夢。
 ほとんど涙目になりながら掃除する私の様子を、猫どもが順番に覗きに来た。そして、珍しく、覗いただけで大人しく帰って行った。
 奴らにも、事態の深刻さは察せられたらしい。
 
 

 
  
 先日のクリスマス会のとき、初詣をいつにするか、相談をしていたところ、
「アタシ、お祓いしてもらうから。」
と、誰とは言わない、決然と言い放った人物がいた。
「付き合ってくれなくてもいいけど、悪いけど、終わるまで待っていてね。」
 そのとき私は、自分はどっちでもいいや、という気持ちだった。
 その初詣は、明日である。
 今、私は、
(やっぱり、私もお祓いしてもらった方がいいかも…)
と、ちょっと真剣に考え始めている。
 
 
 ところで、眼鏡であるが。
 今日、駅前の眼鏡屋さんに行って、新しい眼鏡を注文してきた。
 店に入って、近寄ってきたお兄さんに、
「近眼の眼鏡を新しく作りたいんですけど。」
と、言ったとたん、
「ははあ。今のが壊れちゃったんですね。」
 瞬時に正解が返ってきた。
 実は、今日、私は、壊れた眼鏡のブリッジを接着剤で仮留めして、かけていたのである。
 つなぎ目に接着剤が少しはみ出しているのは分かっていた。まあ、少しだから目立たないだろう、と、たかをくくっていたのだが、それだけではなかったらしい。
「プラスチックですからね。接着剤は剥がれてきちゃうんですよ。」
 そう。やはり、「かろうじてつながっている」程度の状態で、本当は今にもとれそうなのだ。お兄さんには、一見してそれが分かったのだろう。
 フレームを選んでいると、昨今の眼鏡は、両脇が心なしか上がった形になっているものがほとんどであることが分かった。
「ちょっと“ザマス”なイメージかもしれませんが、今お使いの眼鏡が、わりと角をつけないフォルムですから、そう感じるだけだと思いますよ。それに、今は余計に両脇が下がっちゃってますし。」
 そうか。
 やはりプロは、目の付けどころが違う。
 フレームの両サイドが下がっているのを見て、それでひと目で事態を察したのか。
 新しい眼鏡の出来上がりは、月曜日だという。
「お正月なもので、どうしても出来上がりが遅くてすみません。その間、セロテープで補強して頑張ってください。」
 おい!
 それが女性客に言う台詞なんかい。
 さすがの私も、1日だけとはいえ、セロテープで補強した眼鏡をかけて仕事に行く勇気はない。
 
 
 猫トイレ掃除の粗相は、掘り出したブツを人トイレに捨てに行こうと立ち上がった際に、ふと眼鏡が気になって、鏡の方を振り向いてしまったことが原因であった。
 そして、後刻。
 改めて、鏡をゆっくりしげしげと眺め――
 
 
 ハイ、そうなんです。
 もう、あれもこれも、ついてないことだらけで、ホントに困ってるんです、私。