本日の玉音ちゃん


  
 
 本日、これまでに四回の強制給餌を決行――。
 
 
 今朝。
 目覚めたら、玉ちゃんが私の脇腹の上にいた。
 その時、私は横寝の状態になっていて、仰向けになりたかったのだが、その上側の脇腹の上に、玉ちゃんはいた。
 困ったな、と思ったが、落とさないようにそろそろと体を回転させると、玉ちゃんは器用に重心を移動させ、仰向けになった私の、こんどは胸の上に落ち着いた。
 そのまま、しばらく。
 寝起きの頭でぼんやりと考えていた。
 このまま捕獲できれば、給餌も薬も一発でいけるんだけどな。
 もちろん、無理である。
 起きなければ、流動食を温めることも、シリンジにセットすることも、薬を袋から出すこともできない。
 枕元に用意しておけばよかっただろうか。
 いや、どのみち無理だ。
 そんなことをしていたら、他の二匹が黙っていない。というより、その時点で、すでに黙っていなかったのだった。
 
 
 と、いうわけで。
 男どもの食事が済んでから、再びこたつに潜りこんだ玉ちゃんを何とか掻き出して(下手に引っ張るとお腹の傷に障りそうなので)、シリンジを口に突っ込んだ。
 昨夜、一度食べさせているので、回数的には二度目になる。
 しかも、拾ったばかりの頃、熱を出した玉ちゃんに強制給餌は経験済みであるので、給餌自体は、まあまあ手際よくいった方だと思う。
 最初はリビングのビーズクッションに座って膝に乗せたのだが、逃げられた。ドキっとしたが、和室に入ったところを案外簡単に捕まえた。そのまま、敷きっぱなしの布団の上で、膝に乗せて食べさせた。
 予想外だったのは、まず、簡単に捕獲できたこと。
 次に、捕まった後の玉ちゃんが、最後まで大人しく抱っこされていたこと。
 まるで別猫である。
 おそらく、傷の痛みと入院のショックで、気力・体力とも、大きく減退している故であろう。
 しかし。
 さらに驚いたことに、食事の終わった玉ちゃんは、私に顎を拭かれながらゴロゴロ言いだし、そのまま膝の上に落ち着いてしまったものである。
 変われば変わるもんだ。
 もしかして、病院で猫をすり替えられたんじゃないだろうか。(いや、柄が同じだ。)
 なお、薬であるが、食後、どさくさにまぎれて口の中に押し込み、これも大過なく飲ませることができた。とりあえず、初戦は完勝であった。
 
 
 同様に、二度目・三度目もクリア。
 
 
 異変が起こったのは、四度目である。
 シリンジを口に突っ込まれた玉ちゃんは、三口目にいやいやをした。そのまま脱走。
 お腹の傷を思うと、押さえつけるわけにはいかない。先生に「無理しないで」と言われたのを思い出し、ここは諦めることにした。
「玉ちゃん、食べたくないの?じゃ、後にしようね。」
 ところが。
 脱走した玉ちゃんが、何だか物欲しそうに、床をクンクン嗅ぎまわっているではないか。
 あれ?やっぱり、お腹は空いているのかな?
 試しに、シリンジから出したドロドロのフードを温め直し、皿につけて出してみたが、食べようとはしない。だが、その皿をじっと見つめている。
 匂いは分かるようだ。
 閃いた。
 いつもウェットフードをほぐすときに使っている、デザートについてきた透明のプラスチックのスプーンに、少量のフードをすくって、エリザベスカラーの中の鼻先に差し出してみた。
 食べた。
 玉ちゃんは自ら舌を出し、スプーンの上のフードをぺちゃぺちゃと舐めた。
 そうやって、用意した量を完食。まだ食べたそうにしていたが、あまり一度に食べさせても腸に負担がかかるだろうと、そこでストップ。量はだいたい、12mlだろうか。
「最初はポタージュスープくらい」と言われた固さから、少し濃度を上げて、グラタンのソースくらいの固さにしたところだった。
 ともあれ、自分で食べられたのだ。
 薬のお陰か、帰宅してから一度も吐いてはいない。昨夜はウンチもした。黒っぽい水様便だが、点滴と流動食が少量しか入っていないのだから無理もない。消化器が正常に動いているだけで、素晴らしいことだと思う。 
 
 
 一日中、こたつに潜っていた玉ちゃんは、その四回目の食事後、こたつには戻らずに、キャットタワーの下のラタンの猫ベッドにいる。
 少しは、体調と気持ちが落ち着いたのだろうか。
 もう少ししたら、本日最後の食事タイムになる。そのときまでそこに居てくれれば、今度は、ベッドの入口からスプーンを差し込むだけで、お互い楽な体勢で食事ができるはずだ。
 あとは、男どもが邪魔をしないことを祈るのみ。
 
 
 ところで。
 玉ちゃんの退院にあたり、彼女が好きな安楽椅子の下に、私は急ごしらえでベッドを用意した。
 
 

  
 
 が。
 昼間、そこには、関係ないオヤジが寝ていたものである。
 
 

  
 
 無駄だったか、と思ったが、無駄ではなかった。
 と、いうのも。 
 玉ちゃんがスプーンからご飯を食べたのは、この即席ベッドの上だったからである。
これはラッキーだった。何故って、ここだけは、バスタオルの下にペットシーツが敷いてあるからである。ドロドロのフードは一部スプーンからこぼれてバスタオルの上に落ちたが、全く気にする必要はない。気持ちよく食べさせることができた。
 今回は、何かとツイてるな、と、私はちょっと気を良くしている。
 もちろん、玉ちゃん自身は、それどころではないだろうが。
  
 
 ただ一つ問題は、彼女の夫が、未だに妻に向かってウーウー言っていることである。




 
 
 
 
 
おまけ
 
 

designed by Madam MITSUKO,TOKYO
(か、どうかは定かではない)※ミツコはうちのセンセのファーストネーム