穀物危機、もしくは秘する男


 
 
 またしても更新が滞っていて、申し訳なく思う。
 が、実際のところ、ブログのための文章を書いている暇が、なかなかない。
 それでも、書き残しておきたいことはある。そのジレンマをどうするかは、ずっと悩みの種なのだが、今回はとりあえず、記録としてだけ書いておく。
 というわけで、今回の文章には何のひねりも、オチもないし、ろくに推敲もしない。言い訳であるが、先に断わっておく。
 
 
 我が家のドライフードとダメちゃんの便秘問題である。
 結論から言うと、ダメちゃんの便秘問題は、すでにほぼ解決している。
 健康診断の時点から、さらにフードを変えた結果である。
 
 
 そもそも、長年愛用してきたロイヤルカナンからの「乗り換え」を検討しはじめたきっかけは、ささいなことであった。
 一年近く前になるだろうか。例の黒缶問題である。
 海缶が製造中止となり、我が家は猫缶ジプシーになった。黒缶は食べてくれないし、食べてくれるフードは、調味料だの香料だの、猫の健康のためには不必要と思われるものが添加されていたりして、なかなかこれという物が見つからなかった。
 毎日毎日、理想のウェットフードを求めて、ネット検索を続けていた。
 私と同じことをしたことがある方なら、すぐ分かると思う。調べてみると、ウェットフードに関する記事は、皆無に近い。猫の健康管理に熱心な方々の関心は、百パーセント、ドライフードにある。あるサイトでは、「ウェットフードには栄養価を期待してはいけない」みたいなことさえ、堂々と書いていた。要するに、ウェットフードは、ほとんど猫の嗜好品のような扱いなのである。
 代わりに、ドライフードに関する記事は、これでもかというほどあった。
 となれば。
 ウェットフードのことを調べていたはずなのに、気が付くと、毎日毎日、ドライフードに関する記事を読み続ける結果になってしまったのである。
 こうして、私は洗脳された。
 私はロイカナが、キャットフードとしては高級な方だと思っていた。しかし、上には上があった。キャットフードの比較記事を書く人々は、ロイカナなんてハナもひっかけない。彼等が信奉するのは、グレインフリーのナチュラルフードのみなのである。
 洗脳の効果は凄い。
 気が付くと私は、ウェットフードそっちのけで、ロイカナからの「乗り換え先」のナチュラルフードを探していたのだった。
 
 

 
 
 何と言っても、いちばん目に飛び込んでくるのは、昨今流行りの「カナガン」である。
 カナガンについてしばらく調べていたら、スマホにやたらとカナガンの広告が表示されるようになった。そしてある日、突然、「百円モニター」の広告が出現した。
 よくある「今だけ」「数量限定」系の広告である。
 私は悩んだ末に、応募しようとした。が、最後の最後に踏ん切りがつかず、申し込み直前で放置した。結果、タイムアウトし、二度とその「百円モニター」の広告は表示されなかった。
 私はいたく後悔した。
 この時点で、かなり敵のペースに乗せられていたと言っていい。
 だが。
 何とかまた、その「百円モニター」に応募する道に辿り着かないかとあれこれ探っているうちに、逆の感情が芽生えてきた。
 カナガンだけは買いたくない、という気持ちである。
 理由は三つある。一つは、その「百円モニター」が、たいしてレアではないらしい、と気付いたこと。
 それと、これは輸入業者のせいではないのだが、調べれば調べるほど、常時、スマホの片隅にカナガンの広告が表示されるようになって、そこから言い知れぬ押しつけがましさを感じ始めたこと。
 最後の一つは、当時のカナガンのホームページのデザインが、私の好みに合わなかったことである。
 そうは言っても、実のところは、理由なんか後から取って付けたようなものである。要するに、カナガンがあまりにも流行っているらしいので、ひねくれ者の私は、そこに迎合するのが嫌になった、というのが、おそらく本当のところだ。
 
 
 結局私は、カナガンではなく、「ファインペッツ」を買うことにした。
 もちろん、真面目な理由もある。
 どんな商品にも、賛否両論を唱える人がいる。カナガンをはじめとするグレインフリーのフードにも、疑問を唱える人が少数ながらいた。曰く、ヨーロッパの猫と日本の猫とでは、飼育事情が違う。広い家の中で活発に動き回っているイギリスの猫にはカナガンは適するだろうが、狭小な住宅事情からより少ない活動量で生活している日本の飼い猫は、摂取したタンパク質を消費しきれず、これが腎臓病などの諸病の原因となる、と。
 炭水化物は最終的に水と炭酸ガスになるだけだが、タンパク質は、「残る」と厄介なことになる、という趣旨で書いている人もいた。
 ただし、猫が穀類を消化できないという点は、当然ながら、誰もが指摘しているところである。また、穀物アレルギーの問題も、同様によく指摘される。
 どちらを信じればいいのか――。
 それが分からなかったから、ファインペッツを選択した。
 ファインペッツはグレインフリーではない。だが、米を加熱し加工することで、消化率を驚異的に高めてある、というのがウリだ。つまり、猫が「穀類を消化できない」という問題は一応、解決しているわけ。
 そして、我が家には、穀物アレルギーと思われる猫はいない。
 さらに、買ってみて分かったのだが、ファインペッツは海外で生産しているが、企画は日本人によるもので、日本の猫と猫飼いのためにというコンセプトで作られているらしい。国産品好きの私には、そこも実に好感度の高いポイントであった。
 
 

(強力な真空パックのため、パッケージの文字が写りません。)
 
 
 と、いうわけで。
「ファインペッツ」の最初の袋が届いたのが、昨年の七月二十三日。
 猫どもは、抵抗なく食べてくれた。
 ただし問題は、その時点で、まだ買い溜めのロイカナがたくさん残っていたことである。
 そこで必然的に、「ロイカナ・ファインペッツ併用期間」が設けられることになった。要するに、せっかちな私がファインペッツを買い急いだというだけのことなのだが、これにより、我が家にしては珍しく、慎重に時間をかけたフードの切り替えが行われることになる。
 かくして、月日の流れること四ヶ月余り。
 十二月半ばに、ついに我が家は、長いロイカナの歴史に終止符を打った。
 その四ヶ月余りの間、最初はロイカナの方が多かった配合も、少しずつファインペッツの割合を増やし、後半は、大半がファインペッツで味付け程度にロイカナが混じっている、という状態になっていた。そのせいだろうか、そのころには確かに、猫どもの毛ヅヤは向上していたのだ。
 そうして、ダメちゃんの健康診断の日を迎えることとなる。
 健康診断の結果、獣医師から、このフード変更に駄目出しがあったことは、既述のとおりである。
(四ヶ月もかけたのに…。)
 私の落胆を察してほしい。
「じゃあ、便秘に良いごはんのサンプルをあげますから、試してみてください。」
 そういって先生が差し出したのは、ロイカナの「消化器サポート」と、まさにこれまでダメちゃんが常食としてきた「満腹感サポート」だった。
 
 
 先生と助手さんは、明確に空気を読んでいた。
ビフィズス菌、試してみます?」
 助手さんが、私の顔色を窺うように、遠慮がちに声をかけてきた。
 先生が、液体のサンプルを五包くれた。一日に一包、食事に混ぜるのだという。
 私は救われた気で、ありがたく頂いて帰ったが、今にして思えば、それは「気休め」という名の、先生と助手さんの優しさだったのかもしれない。
 
 

 
 
 皮肉なことに、頂いてきた「消化器サポート」「満腹感サポート」を食べさせると、ダメちゃんはちゃんとウンチをした。
 ビフィズス菌の効果は分からない。一日半続けても出ないと、私がその時点で、上記のサンプル食を食べさせてしまったので、五日間続けて様子を見ることはなかったからだ。
 例によってネットで調べると、ヨーグルトを食べさせる、水分を多く取らせるためにフードをふやかす、などの方法が出てきた。
 ヨーグルトは、要するにビフィズス菌と同じことだろう。
 というわけで。
 しばらく、ふやかしフードを試みた。
 動物病院からもらったサンプルの他に、たまたま他から貰ったロイカナのサンプルや、実家から分けてもらった「満腹感サポート」を併用しつつ頑張ったのだが、なかなか決定打が出ない。
 やはり、ロイカナに戻すしかないのか。
 しかし、猫どもの毛ヅヤが向上する様子を目の当たりにしてしまった今、「戻す」選択肢は、できるかぎり避けたかった。
 もう少しなら、値段が上がっても構わない。何か便秘に良いフードはないだろうか。
 ネットで「便秘に良いキャットフード」を検索すると、おすすめキャットフードのランキングのサイトが出てきた。
 そこで上位に輝いていたのは、何と、またしても「カナガン」なのだった。
  
 
 で。
 どうしたかと言うと――。
  
 
「シンプリー」にしました。
 
 

 
 
「便秘に良いキャットフード」のトップに輝く「カナガン」の名を目にした瞬間。 
 あのとき、私は負けを認めた。
 かわいいダメちゃんのためだ。いさぎよく、プライドは捨てよう。
 ――と、思ったのだが。
 改めて調べてみると、それまで、少量であるが穀物を使っているからと、「カナガン」より劣るとされていた「シンプリー」が仕様変更され、グレインフリーになっていたのだ。
「カナガン」と「シンプリー」は、同じ業者が取り扱う「なかま」である。
「お肉の好きな子はカナガン、お魚の好きな子はシンプリー」
という使い分けらしい。
 うちの連中がお魚好きかと問われると、そこはよく分からない。ウェットフードは確かに、ずっとお魚系が多かったのだが、ドライのロイカナはチキン系だったからだ。
 だが、読んでいくと、はっきりとは書かれていないのだが、どうやら「シンプリー」の方が、老猫に適するようなニュアンスが感じとれた。
 もともと、ダメちゃんのためにフードを変えるのだ。だったら、シンプリーの方が良いに決まっている。便秘に良いランキングも、「カナガン」に次ぐ二位(当時)だったし。
 こうして、私のプライドは保たれた。
 私はシンプリーのホームページにアクセスし、とりあえず一袋、購入して見ることにした。定期購入の方が安いのだが、本当に便秘改善に効果があるかは、食べさせてみないと分からないからだ。
 
 
 が。
 単品購入しようとすると、最後にメッセージが出た。
 文言は忘れたが、要するに、「今、定期購入の仮予約をしておけば、今回から割引価格を適用しますよ。期間内ならキャンセルもできます。」という趣旨である。
 出たっ!!
 やはり、お主もそっち系だったか、シンプリーよ。
 と、思いはしたのだが。
 私は売り手の商法に、いちいち引っ掛かるタイプの人間である。こういう場合に、「ま、後でキャンセルすればいいんだから。」と、ついフラフラと仮予約をして、結局取り消せずにズルズルと…というのが、いつものパターンなのだ。
 今回も見事に、引っ掛かった。
 正月早々、ほろ苦さを秘めた買い物であった。
 それでも神様は、そんな私を憐れんでくれたらしい。
 二週間ほどの切り替え期間を経て「シンプリー」に移行したダメちゃんは、三日に二回くらいのペースで、きちんと固形物を排泄するようになったのである。
 
 
 と、まあ。こんな次第で。
 ダメちゃんの便秘と、我が家のドライフード問題は、一応、決着した。現在、我が家では、四週間に一度届く「シンプリー」二袋を、三匹で元気に消費している。
 ただ、贅沢を言えば、「シンプリー」は粒が大きい。いや、とりたてて大きいわけではないのだが、「ファインペッツ」が細かかったので、それにくらべると、歯のないダメちゃんにとっては若干食べにくそうだな、と思う時がある。
 また、固さも少し固めなのかもしれない。
 ついでに、これは現状では問題にならないのだが、「シンプリー」はふやけにくい。お湯につけておいても、表面が柔らかくなる程度で、なかなか芯まで沁み込まない。容易にふやかしフードが作れた「ファインペッツ」なら、例えば彼が歳をとって固いものが食べられなくなったり、病気になってしまったりしても与えることができると思うのだが、「シンプリー」は、そうはいかないだろう。「シニアまでずっと食べられる」と宣伝している割に、そうした点にリスクがあるのだ。
 そうこうしているうちに、同じ会社から「モグニャン」が発売された。
 他人のサイトで見ただけなのではっきりは分からないが、「シンプリー」より少し粒が小さいように見える。また、主原料が白身魚なので、シニア猫にも適するようだ。
 だいいち、「カナガン」「シンプリー」がイギリスの商品を輸入しているのに対し、読んでみると、どうやら「モグニャン」は、日本で企画されたものをイギリスの工場で生産しているらしいのである。つまり、「ファインペッツ」と同じ形態だ。
 私は「メイド・イン・ジャパン」もしくは「企画は日本」という製品に弱い。
「モグニャン」を買ってみようかしら。
 でも、一袋だけ買うと、送料がかかる。
 定期購入している「シンプリー」二袋のうち、次回は一袋を「モグニャン」にしてみるとか。
 でも、万一、食べなかったら、次回の配送まで、ご飯が足りなくなってしまう。
 じゃあ、「シンプリー」二袋と、「モグニャン」一袋にしてみるか。
 それとも――。
 
 
 いっそ、お試しで「モグニャン」一袋と「カナガン」一袋を、買ってみればいいんじゃないの?
 そんな悪魔の囁きが聞こえてくる、今日この頃である。