強引な男

  この頃彼は、無理矢理に私の唇を奪おうとする。
  それは彼の、私に対する、切なくも狂おしい愛、なのだろうか。
  いいや、違う。
  そこには、屈強の男の本能が命じる、生理的欲求以外の何物も感じられない。
  なぜなら…


  だって、それって、私が食べ物を口に含んでモグモグやっている時、限定だもん。


  私は拒絶する。
  彼は悲しい目をして引き下がる。その眼差しに、私は鋭く胸を衝かれる思いがする。
  私の愛が、足りないのだろうか。
  だが、彼は永遠に理解しないだろうが、これは私の彼への愛の形なのだ。
  なぜなら…


  だって、そんなことしたら、猫の口にミュータンス菌をうつしちゃうでしょ。


  虫歯は痛いんだよ、ダメちゃん。



(註:猫が歯を磨かなくても虫歯にならないのは、猫の口にはミュータンス菌がいないからだと聞いたことがあります。ごく稀に猫が虫歯になるのは、人間が口移しで食べ物をやったりして、人間のミュータンス菌をうつしちゃうからなんだそうな。確認はしていません。)



(しかも、私の目の前で他の女といちゃつく男である。)