ひねくれ猫を手に入れて そろって住んだということだ

 友人宅で、そのお宅の猫に会ってきた。
 三匹いる猫のうちの一匹が、ちょうどヨメと同い年のメス。飼い始めた時期も近いので、「今、ウチのはこんくらい」と、経過を報告しあってきた関係である。
 友人の方は、見合いにもついてきてもらったので(目視できる限りで)ヨメを見知っているが、私の方はこれまでなかなか、そのお嬢さんにお会いする機会がなかった。可愛い写真を何度か貰っていたこともあり、長らく楽しみにしていた対面であったわけである。
 お嬢さんは、三毛猫である。保護者の許可を得ていないため、今回写真を掲載することは差し控えるが、美形で、三毛の配色が良い。しかも、甘えん坊で性格も可愛い子のようだ。呼べば返事をするらしい。あまりに人懐こいので、当初は先住猫の方に肩入れしていたご家族も、
「こんなにくっつかれちゃねえ」
と、あっさり陥落した、と聞いた。
 微笑ましい話である。
「それは素晴らしい。」
と、コメントした、私の言葉の行間を読み取ってほしい。


 して、結果。
 奥床しいお嬢さんは、冷蔵庫と壁の隙間に潜り込んだまま、ついにお出ましになりませんでした。
「こんなに人見知りだったんだねえ。」
と、友人は申し訳なさそうにしていたが、
「ま、こんなもんでしょう。」
 そう、覗けば見えるところにいるだけ、ウチのヨメに比べりゃ大したもんである。


 ウチのヨメは、基本的に、私以外の人間には目視できない猫である。
 時々訪ねてくる母と姉にしても、見ることはできても触ることはできない。テレザート星のテレサ(古過ぎ)と同じ、反物質猫なのである。
 しかし。
「じゃあ、あなたには懐いているの?」
と、人に尋ねられると、私は答えに窮する。
 確かに、私は彼女に触ることができる。私に対してのみ、反物質ではなくなるらしい。
 が。
 未だに私と目が合うと、三回に一回くらいは走って逃げる。
「何かイヤなことをされるに違いない」
という、根強い疑惑を抱き続けているらしいのである。


 例えば。
 私がダメを撫でていると、ヨメが間に割り込んでくる。
「ヨシヨシ、お前も甘ったれだね」
と、私がもう一方の手で首周りを撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。が、ゴロゴロ言いながら、背筋には緊張感がみなぎっている。
 自ら首を回し、撫でてほしいスポットを指定してくる割には、目に油断がない。
 撫でてほしいのか、ほしくないのか、よく分からん奴なのである。
 私を油断させておいて、反撃を企んでいるのか。
 さながら、身を任せると見せて、敵将ホロフェルネスの寝首を掻くユディットといったところであろうか。
(そりゃ褒めすぎだ。)


 というわけで。
 要するに、というか。
 白状すれば、というか。


 …実は、これが面白くてやめられないのよね。


 つい、捕まえて構いたくなっちゃう。
 つまり、ヨメの疑惑には根拠があったわけ。


 そして。
 ひねくれ猫とひねくれ家主の間に、和解の日は当分やってきそうにないのであった。




(自由気ままに生きていた、娘時代に帰りたい…)
アンタ、今だって好き勝手やってるでしょ。