2012抜け毛大魔王伝 〜序章 大魔王覚醒〜

 

  
  
 5月。
 八十八夜も過ぎた。
 いや、暦の問題じゃない。
 
 
 天気予報がつぶやく。
 初夏を思わせる、汗ばむ陽気となるでしょう。
 いんや、まだまだ…
 
 
 でも、何だか、
 最近、ちとザラついてきたような…
 気のせい、気のせい!
 
 …と。
 時の流れに背を向けて、現在のかりそめの平和が、永遠であることを信じようとした私であったが。
 昨日の朝、見てしまった。
 背中を舐めているダメちゃんが、舐めるそばから「ぺっぺっ」と、やっているのを。
 
 
 ああ。
 もう、駄目だ。
 今年もまた、始まるのか。
 あの、終わりのない不毛な闘いの日々が。
 もとい、多毛な闘いの日々、である。
 
 
 意を決して、現実を見つめてみると。
 ああ、見たくない。
 辺り一帯、毛だらけである。
 ダメが冬じゅう、毎日座っていたこたつ布団。ここ3日ほどで付着した毛の量は、冬季のおおよそ3週間分に迫る勢いである。
 そして、私の服。
 
 

 
  
 左の腕(袖)を撮影したもの。
 毛が付いている、と見えるのが、オーバーコートである。
 あと、全体に灰色っぽくくすんで見えるのが、べったり付着したアンダーコート。
 元は普通の白い袖である。
 
 
 と、いうわけで。
 ブラッシングしました。
 今回の成果は、こんなもん。
 まだ序の口。
 
 

  
  
 例によって、キチキチに丸めてみました。
 
 

  
  
 その、ブラッシング攻撃を受ける大魔王であるが。
 何故か、年々、ブラシに対して寛容になる。
 確か、最初の何年かは、嫌がって逃げていたような…。
 それが徐々に、大人しくやらせるようになり、ゴロゴロ言い始め。
 最初は触らせなかったお腹や、お尻周りや、内腿も、許可するようになり。
 何と今年は、お腹にブラシを当てていたら、自分から大股広げてきたものである。
 
 

 

 

  
   
 ひとしきりブラシを当てて、毛皮の手触りは、いくらかすべすべとしてきた。
 が。
 いい気になって撫でていると、また、尻尾の付け根に抜け毛が溜まる。
 きりがない。
 やはり、あの平和はかりそめであった。
 大魔王の威力は、ちっとも衰えていなかったのである。
 
 
 そればかりではない。
 大魔王は、更なる攻撃を仕掛けてきていたのだ。
 
 
 明け方。 
 まどろみのなかで、私は聞いた。
(ゴボッゴボッゴボッ…)
 今思えば、私はそれを、二回聞いたような気がする。
 
 
 非情なる大魔王。
 彼の放った爆弾である。
 
 

  
   
 ただし、この爆弾は、彼の食事場所に着弾した。
 おかげで、掃除が済むまで、彼は朝食をお預けされることとなったものである。
 
 
 ところで、今日は4連休の3日目である。
 前半2日は、天気が悪かったこともあって、やる気にならなかったのだが。
 そろそろ掃除せんとな。毛だらけだし。
 と、思っても、なかなか始めない、ぐーたら家主。
 結局、掃除機をかけはじめたのは、午後も遅くなってからであった。
 で。
 食卓の下に敷いたカーペットを掃除していると、何やら、茶色っぽい塊が落ちていた。
 あれ、こんなところにもあった。
 ここで手掛かりを発見したのだから、このときよく探索すればよかったのだが。
 毛だらけのため、冬季より数倍時間のかかる掃除機かけが終わり、やれやれと座り込んだとき、気付いた。 
 あれ!? 椅子の脚が…
 
 
 あ…あああっ!!!
 そう。
 カーペットの上にも、しっかり着弾していたのだ。
 爆弾はもう、カラカラに乾ききって、椅子の脚とカーペットに、がっちりとこびりついていた。
 せっかく掃除し終わったのに。
 おのれ、大魔王…。
 
 
 だが、人間だって、一方的に負けていたわけではない。
 今日は、大魔王と対峙するたびに、地道にブラッシング攻撃を繰り出していた私。
 お陰様で、ちょっと撫でたくらいでは、手に毛がつかないまでになった。
 そして、夕食後、いつものとおり、キッチンマットの上でゴロンする大魔王。 
 
 
 気のせいかな!?
 写真では分からないだろうけど、心なしか見た目もサッパリとしたような…。
 
 

  
  
 何て言うか。床屋に行きたての中学生みたい。
 
 
 閑話休題
 巷では、某俳優さんが、二股(以上)しちゃったとかで色々タイヘンなようであるが。
 実は、我が家でも、同じようなことが起こっている。
 
 
 この家の家主は、毎日、大治郎くんの背中にへばりつきながら、
「ダメちゃん、好き好き。世界で一番愛してる!!」
と、口説きまくり、一方で、ヨメが「撫でれ」と近寄って来ると、
「ヨシヨシ、いい子だ、いい子だ。オマエさんも可愛いよ。」
と、撫でまくっているのだが。
 ある日、気が付いたら、ヨメに向かって、
「可愛い、可愛い。世界で一番愛してるよ。」
と、口走っていたのだ。
 
 
 あ…。
 間違えた。
 
 

  
  
 しばらくは、ヨメに猫パンチされないように、充分気を付けようと思う。