抜け毛大魔王伝 vol.3〜死闘編〜


 猫の換毛期って、どうしてこんなに長いんだろう…。


 季節の変わり目の「衣替え」のようなものなのだから、夏が始まる前に完了していて然るべきだと思うのだが。
 いっそ、いっぺんハゲになって、改めて全部生えてきてくれた方がいいかも、と、時々真剣に思う。


 夏は、大魔王が最も凶悪化する季節である。
 こっちも汗ばんで肌がベタついているので、うっかり顔を近付けようものなら、えらい目にあう。
 暑いのに擦り寄って来るしつこい人間への自衛策か?と思いきや、そうでもない。だったら最初から離れていればいいのに、大魔王の方から人間に近寄ってきたりする。
 私は(自分が家にいるときは)なるべくクーラーを使わないようにしているので、休日の昼間などは、扇風機にあたってまったりしていることが多い。そんなとき、扇風機に惹かれるのか、私に用があるのか、大魔王が膝先に降臨したりするのである。


 人間は、弱い存在である。
 ロクな目に逢わないと分かっていても、目の前に猫がいると、つい触りたくなる。
 そして、触ってみると、大魔王の背中のザラつきが、どうしても気になるのである。
 自然、手がブラシに伸びる。
 最近、大魔王はブラシ攻撃に対し反撃しない。ゴロゴロ言いながら、されるがままになっている。
 大変、良いことである。
 が、愚かな人間は気付かない。
 それが、大魔王の深遠なる世界征服計画の一端であることに。 


 扇風機の前で、猫をブラッシングすると、どういうことになるか。
 言わずと知れたこと。大魔王の撒き散らす毛害は、世界の隅々にまで蔓延することとなる…。


 ていうか。
 そもそも、扇風機が汚染されてるんだから、仕方ないよね。




 拡大すると、このとおり。




 でもね。
 笑えるのは、大魔王自身が、自分の毛害に辟易しているらしいところ。
 しばらくブラッシングをサボっていると、奴はグルーミングしながら、時々「ペッペッ」とやってたりする。


 世界征服を目論む自らの武器で、結果的に自らを滅ぼそうとしている。
 それって、巨神兵に似ているかも。
(似てないか。)