アタゴロウ、元服


 
  
 と、タイトルには書いてみたが。
 猫はいつをもって成年に達したとみなされるのか。実を言うと、知らない。
 キャットフードの分類はたいてい、「1歳未満」を「仔猫」とし、成猫用のフードは1歳からと相場が決まっている。ということは、1歳に達したときが、成人ならぬ成猫なのか。
 一方、私が最初に読んだ「猫の飼い方」の本では、猫は最初の1年で、人間で言うところのおよそ18歳になると書いてあった。ということは、1歳ではまだ、成人式、もとい、成猫式は迎えられないことになる。
 だが。
 日本男児元服は、15歳くらいから、せいぜい18歳までには済ませるものと、認識している。
 アタゴロウは推定10月生まれなので、まだ微妙に1歳に達していない。現在17歳くらいといったところか。であるから、「元服」なのである。
 大人になったといっても、正確には20歳に達していないので、選挙権はない。酒・タバコも、当然禁止である。
 
 
 冗談はさておき。
 最初の問題に戻って、それなら、この度、何をもって「元服」としたかというと。
 これまたキャットフードの分類に戻る。要するに、仔猫用のフードを卒業して、成猫用を食べ始めた、ということである。
 これが私には、別の意味で感慨がある。
 日本語の表現は微妙だ。私の思いは、彼のドライフードが仔猫用から成猫用に「切り替わった」ところにあるのではない。仔猫用のフードを「終了した」ことにあるのだ。
 ついに。
 そう、ついに、この日が来たのだ。
 あのときは、いつかこの日が来ることを頭では理解しつつ、到底、想像などできずにいた。
 あのとき、とは――
 時は2月。「ロイヤルカナン・キトン」の10kgパックが我が家に届いた日である。
 
 
 ドライフードの10kgパックとは、どの程度、一般的なものなのだろう。
 見た目はいかにも「業務用」だが、多頭飼いの家庭では、案外、お馴染みのものなのかもしれない。
 だが、私は、そのとき初めて実物を見た。そして、腰を抜かした。
 で、デカい…。
 これをみんな、あのチビが喰うのか?
 
 
 なにしろ、このダンボールを開けたら、
 
 

  
  
 このパック一つだけがドカンと入っていたのだ。
 
 

  
  
 大きさが分かるように、横にティッシュの箱を置いてみたのだが、やはり、この迫力は、写真では伝わらない。だからこそ、私自身が腰を抜かしたのだ。
 なお、段ボールのサイズは、タテ54cm×ヨコ38cm×深さ25cmである。
 
 
 そして、袋を開けてみて、くらくらと目眩がした。
 
 

  
  
 これ、一体いつ、食べ終わるんだろうか。
 
 
 さらに困ったのは、何しろ10キロもあるので、いつものように袋を持ち上げて、中身をザラザラと容器に移し替えることができない、という点であった。
 仕方なく、お風呂のお湯を手桶で汲み上げるように、カリカリの容器をこの中に入れて中身を汲み上げるという方法で数カ月を乗り切ったことを、ここに記録しておく。
 
 
 もちろん、私とて無計画にこんなデカいのを注文したわけではない。消費スピードを計算の上、だいたい9月中には食べ終わるだろうという予想のもとに、購入に踏み切ったのである。
 ただし、自分で言うのもナンだが、こんなことをするのは、本当の愛猫家ではない。
 猫のことをキチンと考えている人なら、いかにドライフードとはいえ、開封された状態でそんなに何ヶ月も保存すると、湿気を吸うとか、香りが飛ぶとか、あるいは、油分が酸化したりしないだろうか、といった諸々の心配をするであろう。
 我が家の猫どもにとって極めて遺憾であったのは、飼い主の私自身が、賞味期限であるとか、そういったものを全く気にしない人間である、ということである。
 だが、実際問題、7ヶ月目に至っても、「キトン」は別に悪くもならなかったし、相変わらず美味しそうな匂いを漂わせ、アタゴロウは最後まで夢中になって食べていた。
 保存状態が良かったということなのか、あるいは、彼が正しく猫山家の猫として育ったということなのか、その辺は定かではない。故に、正しい猫飼いの皆様には、この報告を、「10キロパックのすすめ」だと勘違いしないでいただきたいと、切に願う。
 
 

 おかげさまで、完食いたしました。
  
  
 と、いうわけで。
 めでたく、成猫用フードを食べ始めたアタゴロウくんであるが。
 残念ながら、彼もおじさんと同じ道を歩き始めたようである。
 
 

   
   
 食べさせ過ぎ、だったのか。
 体質的な問題もあるのかもしれない。実は、最後に動物病院に行ったときだから、4月頃からであろうか。すでに、アタゴロウの腹は、垂れ下がりつつあった。
「あら、お腹出てるわね。」
と、病院で指摘され、
「食べさせ過ぎでしょうか?」
と、一応、尋ねてみたのだが、いやいや、と、軽く返されて終わりだった。
 以来、
(こいつ、肥満児かも…)
と、警戒しつつも、育ち盛りの仔猫に食事制限をというのもいかがなものか、という思いが強く、特にダイエットなどはさせなかったのである。
 欲しがるのは、成長のために体が欲しているからだ――その解釈は、間違っていたのだろうか。
 こういうとき、ペットフードのパッケージに書いてある「給与量」ほどあてにならないものはない。ドライはドライ、ウェットはウェットだけを与えることを前提に計算するからなのだろうが、パッケージに書かれている量は明らかにべらぼうだ、と思うのは私だけだろうか。
 書いてあるとおりに与えたら、間違いなく、その猫はデブデブになる。というより、そもそも、そんなに食べないような気がする。
 もちろん、アタゴロウに食べさせた量は、パッケージに書いてあるよりも大分少ない。それでも結局、こんなことになってしまった。
 キャットフード業界は、相撲界と、裏で繋がっているのではないか?
 前足を開いてふんばっているさまを見ると、新弟子検査に応募させたい気分になってくる。
 
 

   
   
 かつて彼は、ひそかに「売れないホスト」と呼ばれていた。
 命名者は、「体操のおねえさん」こと、我が姉である。
 もみ上げがぜんぜん似合っていない上に、タキシードの着方がだらしない。

 

(2013.6.8撮影)


 しかも、ズボンの裾がほころびている。
 
 

   
   
 まあ、実のところを言えば、もともとは、奴があまりに、来客に対し愛想がないので、ホスト役失格だね、という会話から生まれた渾名ではあった。
 愛想がないのは相変わらずだが、お陰様で奴も、「売れないホスト」を卒業した模様である。
 なぜって。
 今となっては、タキシードの前が閉まっていないのは、だらしないからではなく、
 
 

(本日撮影)
 
 
 というようにしか、見えないのである。
 
 
 少年時代は、半端な美少年ゆえホストを目指したが、鳴かず飛ばずのまま太ってしまったため、元服後は相撲部屋の門をたたく。
 そんな生き方も、ありではないか。
 毎日、親方相手にぶつかり稽古に励む彼を見ていると、そんな微笑ましい気分になってくる、今日この頃である。