入院二日目


  
 
 元気はなかった。
 焦点の合わない目をしていて、最初に見た時、目が白濁しているようにさえ見えた。
 少し熱が出ている、とのことである。
「手術後は、よく発熱するものなんですか?」
「どの子でも出るってわけではないですが、まあ、大きな手術の後なので、出る子もいます。」
 元気がないのはそのせいらしい。
「ご飯は食べましたか?」
「食べようとはしないです。でも、口に入れてやると食べるので、お腹は空いているようです。性格的にビビリな方なので、そのせいかな。」
 食べてくれるなら、まあ安心だろう。
「排泄の方は?」
「おしっこは出てます。うんちは、まだしていませんね。」
 おしっこは、今、カテーテルを入れているので、お陰で順調ということもあるのだろうか。
「明日あたり、カテーテルを抜いてみます。」
 三日目でカテーテルを抜くのだから、術後の回復としては予定どおりなのではないか。後は熱が下がってくれればいいのだが。
 見ているうちにだんだん目つきははっきりしてきたが、やはり顔が緊張している。顔を指で撫でてやると、小さい声で
「ウー」
と、唸った。
「アタちゃん、分からない?」
 多分、私が分からないわけではないと思う。触られて、何かのはずみで痛かったのかもしれない。あるいは、痛いし熱で辛いし動けないしで、防衛本能の方が強く出ていたのか。
 以前、玉音が入院した時に、私が面会に行ったら喜んでくれたので、正直、今回もそれを期待するところはあったのだが。日頃は私を警戒している玉音が私の面会を喜んで、いつもは私に甘えまくりのアタゴロウが唸るとは。
 まあ、ね。
 もしかしたら、アタゴロウ的には理不尽なものがあるのかもしれない。手術した時点で尿道が詰まっていたわけではないから、彼の感覚としては、もともと具合が悪かったとは思っていないだろう。平和に暮らしていたら、突然、病院に連れて来られて、こんな痛くて苦しい思いをさせられているのだから、人間不信になっても無理はないか。
 それでも、おうちには帰りたいはずだ。
「アタちゃん、早く元気になっておうちに帰ろうね。」
 明日は彼が「おうちに連れて帰って」アピールをしてくれるといいなと思う。
 熱が下がれば、そのアピールをする元気も出るだろうか。