入院三日目


  
 
 写真ではあまり分からないかもしれないが、昨日よりは目に輝きが戻っているように思った。
 が。
「昨日よりは、熱、下がったんですか?」
「いや。昨日と同じくらいですね。」
 残念ながら、熱はまだ下がっていなかった。
「今日の二時半頃にカテーテルを抜きました。あとは、自力でおしっこが出てくれれば。」
 ということは、その後はまだ、していないわけだ。
「回復としては、普通のペースなんですか?」
「まあ。そうですね。」
 傷は治ってきているという。
「動かないですけど、やはり痛いんでしょうか。」
「痛いには痛いでしょうが、それより、病院で緊張してしまっているんじゃないかな。」
 そう。顔つきには緊張感がみなぎっている。
 今度は、院長先生が私に尋ねてくる。
「普段は活動的な子ですか?」
「はい。」
 答えながら、そういえば、どちらなんだろうと思う。特別に活動的というわけではないかもしれない。だが、毎日、ダメと壮絶な追いかけっこをしているのだから、少なくとも「活動的でない猫」とは言わないだろう。
 そこで、思い出す。
 昨日、姉に会った時、「りりの運動能力が落ちてきた」という話を聞いた。
「ジャンプとか、前は一回で跳べたところを、ワンステップ入れたりしているのよ。」
 へえ、そうなんだ。
 ダメちゃんは、特にそういう感じはしないなあ。
「アタゴロウと毎日追いかけっこしているからかな。」
「確かに、りりちゃんは、ななちゃんがいなくなってから、あまり動かなくなったわね。」
 つまり、老齢にさしかかったダメちゃんにとっても、アタゴロウの存在は大きいのだ。
「アタちゃん、早く元気になって、おうちに帰ろうね。」
 指で頭を撫でてやろうとすると。
 何と。
 牙をむき出してシャーを言った。
「あら、シャーだって。」
 構わず撫でてやると、今度は小さい声でウーウー唸る。
「何よ。怒ってるの?」
 横で院長先生が苦笑いしている。
「でも、シャーって言えるだけ、元気が出たってことですね。」
「まあ、ねえ…。」
 あ、フォローに困ること言っちゃった。
 などと話しているうちに、アタゴロウが突然、少しだけ向きを変え、こちらに向かって進んできた。立ち上がるところまでは行っていないが、わずかとはいえ、しっかり場所を移動したのである。
「あ、動いた。」
 パンダか。
 アタゴロウは私を凝視している。いや、睨んでいるのか。
「分かった、分かった。文句は帰ってから聞くから。」
 なお、ほんの少しであるが、自分からフードに口をつけたそうである。
「食べたといっても、ほんの十パーセントくらいなんですが。」
 言い方が、獣医師だ。
 見ると、置いてあるフードのうち、ウェットフードの方は、例の、すり身の肉を楕円形に成形したタイプのものであった。アタゴロウが敬遠するやつである。
 と、いうことは、これをすりつぶしてやれば、食べるのではないか。
「この形状のフードって、食べないんですよね…。」
 言いかけると、
「え、でも、口をつけたの、これですよ。」
 おいっ。
 何だよ。
 これまで毎日、私が手間暇かけて、形状が分からなくなるまですりつぶしていた労力は、一体何だったんだ。
「じゃね、アタゴロウ。早く元気になって、おうちに帰るんだよ。」
 帰ったら、話し合うことが、色々あるようだ。
 
 
 おまけ。今日のダメちゃん。
 
 

 
 
 今日、久々に膝に乗った。(と言っても、正確に言えば、膝と膝の間のクッションに座ったのである。彼は大きすぎて、私の膝には乗り切れないため。)
 甘ったれさんである。
 アタゴロウがいなくて淋しいから、ともとれるが、私にはどうしてもそうは思えない。
 このオッサン。
 アタゴロウがいないから、私を堂々と独り占めできて、たいへん満足している。そういうオーラを出している。
 彼は実に、現実的な思考をする猫なのだ。