とりあえず酸素!(とりあえずという名の酸素はない)

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 昼間途中まで書いた原稿を、丸ごとボツにした。

 現在、二十時三十六分。改めて最初から書き直している。

 状況が若干、変わったからだ。

 

 ダメの状況は落ち着いている、という書き出しだった。

 食欲はあるし、呼吸の状態も良くなった、元気もある、という話。

 これは嘘ではない。実際、一昨日はダメがアタゴロウの頭を舐めてやっているのを見たし、昨日に至っては、アタゴロウとケンカまでしていた。食欲も旺盛で、だがまだ、痩せすぎているため、彼にだけは、一日二度と言わず、折に触れてフードの皿を鼻先に置き、欲しいだけ食べさせていたものである。

 イケメン獣医師は、ステロイドが効けば四日くらいで効果が表れてくる、と言っていた。しかし、前回書いたように、通院時の注射からほぼ一日で、ダメの体調は劇的に改善した。咳は止まり、元気が出、若いころのように底なしにご飯を食べるようになった。食欲増進そのものはステロイド剤(プレドニン)の効用として注意書きに書かれていたものなので、病状とは直接関係ないかもしれないが、咳がぴたりと止まったのは驚きだった。

 その通院が火曜日。効果が表れたのが翌水曜日。続く木曜・金曜と、ダメの咳はほとんど聞かれなかった。息が苦しそうな様子もない。それを見た私が、

(腫瘍が急速に縮小して、気管が圧迫から解放されたのではないか。)

と、ついつい思ってしまっても、無理はないだろう。

 ところが。

 土曜日のこと。

 ダメが一度、咳をした。

 あれ?と思ったが、まあ、まだ治療は始まったばかりなのだから、たまにはあっても不思議はない、と、あまり気にしないようにしていた。だが、それから徐々にではあるが、咳が復活し始めた。

 食欲はあるのだが、私が例の四千五百円の一部として購入したロイカナの「食べない悩みを持つ猫のための3種類のお試しセット」は、彼の好みに合うものと合わないものがあるらしく、日曜日に開封した三種類目の「プロテインエクシジェント」になると、食い付きがトーンダウンした。それでも食べるには食べていたので、とりあえずこれを食べ終わってから、以前も食べていた「エイジングケアステージ1」に移ろうかと思っていた。

 だが、そのトーンダウンは、必ずしも、味が彼の好みに合わなかったためだけではなかったらしい。

 今日、十九時前に、私が猫トイレの掃除をしていると、ダメの咳が聞こえた。久々に本格的な咳き込み方だった。

 嫌だな、と思っていると、今度は、嘔吐の音がした。

 行ってみると、ダメはかなり大量にフードをもどしていた。直前に「プロテインエクシジェント」のドライフードを少し食べさせていたのだが、吐瀉物の半分くらいはウェットフードだった。朝食を消化しきれずに吐いていたのだ。

 ダメはその時、三回(三箇所で)吐いた。今日になってから彼の口に入ったものは、ほとんど全て出てしまったものと思われた。

 

 その後、三十分ほども経ったろうか。ダメとアタがいつもどおり、ご飯場所をうろうろし始めたので、夕食を出してみた。

 ダメは吐いたばかりである。また食べたい気になどなるものだろうか?という疑問はあったのだが、彼も空腹アピールを続けている。健康な猫が、毛玉と一緒に食べたものをリバースしてしまった場合などは、胃袋が空っぽになるので、すぐに「お腹すいた」を言い出すのもしばしばである。同じ理屈で、お腹はかえって空いてしまっているのかもしれない、と、楽観的に考えることにして、食事を出した。

 食べた。が、量は少ない。

 その後、しばらくしてから、また出してみた。

 食べた。

 だがやはり、吐いた。全部ではないものの。

 認めたくないが、また体調が、若干後退してしまっているのだ。

 今のところ、見た目に苦しそうというほどではない。だが、気のせいかもしれないが、彼自身の表情も、少し暗くなっている気がする。

 

 ところで。

 前回、少し触れたが、酸素ルームをレンタルした。

 特に獣医師から指示があったわけではないが、仮に将来的に必要になるなら、早めに設置して、猫どもをその存在に慣らしておいた方がいいと考えたのだ。

 以前、心臓病の小型犬を介護していた知り合いが、酸素ルームを借りた話をしていたのを思い出した。それで、レンタルがあるはずだと思い当たったのである。

 火曜日。猫専門病院から帰宅して、あれこれ考えているうちに昼寝してしまったり、自分も風邪をひいていたのでついでに人間の医者に行ったりしていたのだが、夕方になってから、「レンタルするなら、今日がチャンスではないか」と、遅ればせながら気が付いた。ネット通販ではないのだから、申し込みができるのは、代理店の営業時間中だけである。ということは、平日は電話するタイミングが難しい。そのことに気付いて、営業時間終了一分前に電話をするという、たいへん迷惑な客となってしまったのだが、恐る恐る電話してみたら、何と、翌日の配送で持って来てくれると言う。

 ありがたい迅速な対応である。

 そして、翌水曜日。

 前回も書いた。このとき、ダメは前日とは打って変わって元気になっている。

 意外なことに、運んで来たのは、うら若き女性一人だった。本体(機械)も、ケージ部分も、結構な重量があるのだが。

 玄関先に納品してもらいつつ、契約書に記入していると、

「あら、覗いてる。あの子ですか?」

 玄関とリビングの間の扉の、嵌め殺しのガラスの向こうに、猫の顔が映っている。

「いや、別の子です。――いや、本人です。」

 最初はアタゴロウだと思ったのだが、よく見たらダメだった。

 それにしても、“本人”って、あーた。自分で言いながら可笑しくなった。

 だいいち、酸素室に入るような病気の子が、荷物の配達の人が来たからって、ちょろちょろ覗きになんか、普通、来るもんかね。

「今日あたりからちょっと元気になったもので。このまま、無駄になってくれるといいなって、思ってるんですけどね。」

 素人でも十分できるということだったので、設置は頼まなかった。お姉さんが帰ってから、荷物を室内に運び込み、ケージを組み立てた。少々重いが、確かに簡単だった。きちんと作られているので、安い組み立て家具にありがちな「ネジ穴が合わない」なんてこともない。また、レンタル品と言っても、見た目にもとてもきれいな状態だった。

 以下が、その写真である。

 

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(到着したところ)

 

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(ケージを組み立てたところ。翌日、左右を逆にした。)
 

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(本猫は無関心で、他の猫が入る。お約束。)

 

 なお、酸素を発生させる本体(機械)は、敢えてリビングには置かず、北側の部屋に持って行った。同じ製品を使用している人のブログに、動作音が結構うるさいこと、また、放熱するため部屋が暖まってしまうことが書かれていたからだ。

 大きさは「中サイズ」である。猫なら「小サイズ」で十分、という意見もあったが、小サイズだと、中に猫トイレが置けない。「中サイズ」だと、面積の半分にトイレがぴったり納まる。残り半分に古いバスマットを敷いて、これもまたナイスサイズであった。あとは、本当に中で生活しなければならないことになった場合、水をどこに置くか、である。

 透明なケージの周囲は、古い布団カバーで覆って、薄暗がりの空間にしてみた。

 

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 などなど。

 色々と工夫を凝らしたお陰で、まるで元からそこにあったかのように違和感なく、リビングに納まってしまった酸素ルームであるが。

 結論から言うと、全く使っていない。

 もちろん、スイッチを入れてはみた。酸素濃度計もオプションでレンタルしたので、濃度が上がっていくのを見て喜んだり、自分が頭を入れてみたり(なかなか清々しい感じがする。むしろ自分が入りたい)して、すっかり私の玩具状態であったのだが、残念ながら、猫たちには、「ここに入ってみたい」という興味を惹起するものではなかったようだ。

 もとより、現状として大して必要ではなかったのにさっさとレンタルに踏み切った理由は、「存在に慣れさせるため」と「中に入れば呼吸が楽になることを知ってもらうため」だったのだが、猫たちは、置き物としてケージの存在には慣れたようだが、中にはさっぱり入ろうとしない。扉は開いているとはいえ、入口にビニールシートをカーテンとして掛けてあるせいかもしれない。だが、ビニールシートを取ってしまうと、ケージ内の酸素濃度が下がり、中に入っても「呼吸が楽になる」という経験はできなくなる。痛し痒しである。

 慣れると自分から出入りする子もいるという。だが、どうやって慣れさせるのだろう。「一日に十分ずつ入ってもらって慣れさせる」と書いているブログがあったので、試しにダメをつかまえて入れてみたが、何しろ、最初の一回は、びっくりしてむしろ呼吸が速くなってしまうという、笑うべきか泣くべきか分からない始末であった。その後も、中に入れると、別に騒ぎもしないが、布団カバーを捲ってそっと覗いてみると、座りもせずに外に出られないかと様子を窺っている状態である。

 そうこうしているうちに、段々と面倒になり、ここ二日ほどは諦めて、すでに本体の電源コードを抜き、ホースも外してしまった。

 いったい、何のために借りてるんだか――。

 だが、搬入時に私が代理店のお姉さんに言ったとおり、無駄になるならそれに越したことはないのだ。もしかしたら、ここにこれがあって、私が無駄にレンタル代を払うことが、一種の「おまじない」かもしれないのだ。

 

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(ケージの外の酸素濃度。通常は二十パーセント程度だという。)

 

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(ケージの中。時間が経つと三十パーセントを超える。)

 

 

 冒頭に書いたとおり、ダメの体調は、まだ予断を許さないといったところである。

 イケメン獣医師は、一週間後にもう一度連れてくるように、と言った。おそらく、またレントゲンを撮ってみて、腫瘍が小さくなっているか見るのではないか。あるいは、トータルに健康診断をして、ステロイドの効果が出ているか、判定するのだろうか。

 一週間後、とは、明日である。

 つい数時間前までは、完全にステロイドが効いたものと思って自信満々だったのだが、状況が微妙に変わった今、果たして結果は、どうなることだろうか。当のダメは大理石ボードの上で呑気に寝ているが、私の方が、ブログを書きながらドキドキしてしまっている。

  仕方ない。

 とりあえすは自分が、明日の検査が終わるまで、酸素ルームに頭を入れておくことにしよう。

 

 あ、でも。

 それで酸素ルームが無駄でなくなったら、せっかくの「おまじない」の効果が切れちゃうかしら。

 

 

 

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