ハイ・ディドゥル、ディドゥル、猫がお皿を飛び越えた

 ヨメは合理的な性格である。
 彼女には、障害物を迂回するという習慣がない。
 行く手をさえぎるものがあると、迷わず、跳び越える。
 まさか、ハイジャンプのトレーニングをしているわけではないだろうが、もし、我が家が麻を栽培していたら、必ずや、彼女は「くの一」になっていたことであろう。
 彼女は、ただまっすぐ進みたいだけなのだが、そこまでしてショートカットするか?と、ある意味、感心する場面も、度々ある。
 私が床に座っていると、私の膝を跳び越えて先に進む。(周囲に十分な空間があるのに)
 そればかりではない。
 進路上をダメがフラフラしていたら、ダメの背中を跳び越えている瞬間をさえ、私は目撃した。
 たいがい、失敬なやつである。


 しかも、である。
 ある日、食事の途中で飽きちゃった彼女は、しばし周囲を徘徊した後、たった今まで自分が鼻を突っ込んでいたご飯のお皿を跳び越えて立ち去ったのだ。
 おい!
 この罰当たり!!
 食べ物を粗末にするとは何事ぞ。


 近現代の諸都市開発の歴史を紐解けばすべからく記されているように、合理的と罰当たりは、切っても切れない関係にあるらしい。
 我が家の合理的ヨメ。
 こいつは先日、さらに罰当たりなことをしてくれた。
 カウンターの上に安置してあるミミさんの骨壷を、床に落としたのである。
 隣に飾ってある花瓶も一緒に。
 カーペットの上だったので、骨壷も花瓶も割れはしなかったが、びしょぬれの床と散らばった花を掃除しつつ、私は(自分が悪いわけじゃないのに)ミミさんに謝った。
 ごめんね、ミミちゃん。
 全く、この罰当たりめが。


 ところが。
 その数時間後、私がソファに座って本を読んでいたら、その罰当たりめが、こともあろうに私の膝に乗ってきて、ゴロゴロ落ち着いちゃったものである。
 史上初の快挙、と、普通なら言いたいところであるが。
 内心で私は(自分が悪いわけじゃないのに)ミミさんに弁解した。


 ミミちゃん…
 お願い、怒らないで。私が呼んだんじゃないんです。


 この、罰当たりめが。
 やめてくれ。バチが伝染する。