殺意の浴室

 今日は、本当はダメのネタのはずだったのだが。
 緊急ニュースが入ってきた。
 四たび、ヨメが浴室で命を狙われた(本猫曰く)のである。


 今日、ヨメは私と一緒にお風呂に入らなかった。
 実は、何を隠そう、私が「風呂掃除をしたいから」という理由で、風呂を沸かさず、掃除をしつつ自分だけシャワーを浴びてしまったため、ヨメが風呂場で寛ぐ余地がなかったのである。
 このため、ヨメは私が入浴しようとしていることに気付かず、私も敢えてヨメを呼びはしなかった。
 

 そして。
 私が風呂場から出て洗面所で髪を拭いていると、ヨメが走ってきて、一目散に風呂場に駆け込んだ。
 私は髪を拭きながらだったので、その後のヨメの行動は、後半身部分だけしか見えていない。
 その後半身の動きから推測するに、彼女は、蓋の開いた浴槽の縁に飛び乗ったようだった。
 そして。
 何気なく眺めていた私の目の前で、尻尾を立てたヨメの尻が、スローモーションのように、何度も大きく上下に揺らいだ。
 そして…。
 次の瞬間、ヨメは弾丸の如く、風呂場から走り出してきたものである。


 要するに、ヨメはまたしても浴槽の縁で足を滑らせ、あわやカラ風呂転落の危機に陥ったらしい。
 大きくバランスを崩しながら、辛くも体勢を立て直し、どうやったのか分からないが、向きを変えて浴室の床に飛び降りた。正に危機一髪のところであった。


 そして。


 その後、またしてもヨメは、私が接近するとダッシュで逃げている。
 今回も、私が何か細工をして、彼女を亡きものにしようとしたのだと、誤解しているらしい。


 だったら、ヨメの奴、何だって毎日、私の入浴についてくるのだろう。
 しかも、今日のように一緒に入らなかった日には、必ず、私が風呂から上がった直後に、待ちかねたように風呂場に入っていくのである。
 疑うくらいなら、最初から来なけりゃいいのに…。
 と、考えているうちに、ハッと気がついた。


 もしかしてヨメは、私が入浴と見せかけて浴室に細工をしないよう、毎晩、監視に来ているのではあるまいか。


 なるほど。
 家主のくせに、狭い一室に一人で長時間籠っているというのは、確かに疑惑を掻きたてる行為かもしれない。
 それに、それなら、私に単独入浴を許した日には、直後に風呂場を点検しに来ることも、説明がつく。


 しかし。


 それなら、わざわざ入浴にまで付き合っておいて、いつも私より先に風呂場から撤収してしまうというのは、いくら何でも、ツメが甘すぎないだろうか。





(あたくしは、騙されませんからね。)