サバイバル体質

 
 以前、リトルキャッツのYuuさんが、ヨメの出自について教えてくれた。
 曰く「ムムちゃんは、野良ではありません」と。
「ムムちゃんは、地域猫のお世話をしていた方が保護した猫の子供です。
 地域猫と言えども、おそらくお引越しをした方が、置き去りにしていった可能性が高く…」


 やっぱりね、と、思った。
 こいつには、野良生活の経験がないのではないか、と、常々疑っていたのである。
 なぜって。
 こいつは、食べ物に対する執着が薄いのだ。


 対する、ダメ・りりの兄妹(?)猫であるが。
 こいつらははっきり言って、満腹中枢が壊れている。
「猫は自分の適量を分かっていて、それ以上は食べない」という俗説を信じて、欲しがるだけ食べさせていたら、どちらも肥満猫になってしまい、現在は二匹とも、万年ダイエッター生活を強いられている。
 この二匹は、保護された経緯は違うものの、仔猫時代に野良生活を経験している。
 つまり。
 飢えと戦った経験があるのだ。


 ちなみにであるが、ダメは保護された後も、猫同士の競争に敗れ、本当に満足するまでは食べていなかったらしい。
 我が家に来た当初、「たくさん食べていい」という夢のような状況にフィーバー状態となって、トール缶1本半を一気食いし、結果的には下痢をした、という輝かしい過去を持っている。
 彼が生後10カ月の頃のことである。
 なお、現在の彼の1食分のウエットフードの量は、その8分の1程度である。


 もちろん、当家の猫どもは、いずれも完全室内飼育なので、運動不足になりがち、という事情もある。
 が。
 全く同じ環境で飼育されているにも関わらず、なな姐さんは、太ったことがない。
 成猫になってから今まで、体重の変動がほとんどない。常にスレンダーボディ。4㎏の大台に乗ったことさえないのだ。
 この姐さんは、明らかに自分の適量をわきまえている。
 そして。
 このお方は、仔猫時代、捨てられてすぐに拾われたクチである。捨て猫とはいえ、事実上、野良を経験していないのだ。


 人間の場合、胎児の頃に栄養が足りなかった子は、成人してから肥満となる確率が高いそうだ。戦時中に母の胎内にいて、その後出生した子どもたちの、追跡調査から証明されているという。
 胎児時代に「飢え」を経験したことから、いわゆる「ため込み体質」になってしまう、ということらしい。
 猫の場合は、どうなのだろう。
 一歩進めて、仔猫のときに野良であったということは、母猫も野良であった可能性が高いと言える。となると、野良出身の仔猫は、胎児時代に飢えを経験していることになる。
 当家で飼育した猫は大した数ではないので、統計的に、とか、経験的に、という言い方はできない。ただ、仔猫時代に野良生活を経験している三匹(ジン・ダメ・りり)は、いずれも太っている。成猫になってから野良を経験したミミさんは、おデブ気味ではあったものの、当時、動物病院の先生からは「もともと大柄な子ですから、決して大デブじゃありませんよ」と、言ってもらっていた。その後、病気で食が細り、痩せてしまったから、そのままにしておいたら大デブになったのかは、明らかではないのだが。


 それにしても。
 子供時代に飢えていたから、大人になってもダイエッター。
 それって、あまりに哀しくないだろうか。
 人も猫も。
 ダメやりりの大食いと肥満は、仔猫時代のトラウマが原因なのか、それとも、胎内での、もしくは出生後の飢えが原因で、そういう体質になってしまったのか、その辺りは、推測のしようがない。
 あるいは。
 仔猫時代は、「食べられるだけ食べて、それを上回るだけ走り回る」生活だったから、食っちゃ寝の極楽生活に入って、体のバランスが崩れた、ということなのか。
 その意味で、注目すべきはヨメである。
 こいつは、今後、太るのだろうか。
 いや、太ってもらっちゃ困るのだが。


 一生、食べ物への憧憬を抱き続ける、元野良の腹ペコ兄妹。
 考えれば考えるほど可哀想で、つい、「太ってたっていいじゃないか…」と、悪魔のささやきが聞こえてしまう。
 が。
 実際に、あのやかましいメシコールが聞こえてくると、一気に現実に戻るのである。


「うるさいぞ、このデブ!!」


 結局は温情のカケラも見せない、私の方が悪魔かもしれない。
 
 
  

常にスレンダーな、なな姐さん。