乙女ごころの闇

 

 
  
 この写真。
 赤ニャン時代のダメちゃんである。


 というのはウソ。
 クリアフォルダーでした。
 
 

 
 
 夜、前職場の猫仲間の集会(略して猫の集会)があり、その席でいただいたもの。
 他にも2種類の絵柄があったが、私は迷わず、このコを選択した。
 理由は、最初に書いたとおり。「ダメちゃんの赤ニャン時代」に見えるからである。


 私がダメを最初に見たのは、彼が生後6カ月のとき。
 このときすでに、ダメは、成猫の雌といっても通用するようなデカさだった。
 つまり、私はダメの仔猫時代を知らないのである。
 と、いうより…


 ダメに手のひらサイズの赤ニャン時代があったなんて、考えたこともなかった。


 しかし、ダメはデカくてデブなだけで、造作は美形である。
 赤ニャン時代は、このくらい可愛かったに違いないのだ。
 まあ、人間にしろ猫にしろ、赤子時代は可愛さ100%で横一線、という考え方もあるが…。
 
 

(自分の幼年時代と対面するダメちゃん。)
  
 
 そう、むしろ、個体差はもう少し成長して、幼児時代に至って生じてくる。
 このお方のコドモ時代は、どこから見ても地球外生物みたいで、愛くるしさというものが、全く認められなかった。
 
 

 
 
 はじめて動物病院に連れて行ったとき、さすがに引け目を感じて、つい自分から
「可愛くないんですけど…」
と、言ってみたところ、先生はこともなげに
「いや、仔猫はこんなもんですよ。」
と。
 そういうものだったっけか、と、一応納得して、まあ大きくなれば何とかなるだろう、と、気長に成長を待つことにしたのだが。
 よく考えると、お見合いに行ったお宅には、こいつと同月齢くらいの仔猫がワンサカいて、みんな、カレンダーに載せたいような可愛い子たちだった。
 ななやりりの仔猫時代も、もっと猫らしく可愛かった。
 仔猫時代「ブス」と言われた、S系美女猫のジンちゃんだって、もうちょっと可愛かったような気がする。
 こいつはやはり、明らかに、可愛さにおいて人後(猫後)に落ちていたのだ。
 ちなみに、我が母は、ジンの仔猫時代、平気で「お前はブスだね」と話しかけていたのだが、本人はちっとも覚えていない。ジンは仔猫時代から可愛らしく、自分は最初から彼女を溺愛していたと信じているので、年寄りの夢は、そのままにしておこうと思う。
 

 いただいたクリアフォルダーは、私の通勤用バッグには入らなかったので、私はそれをエコバッグに入れて持ち帰ってきた。
 帰宅後、通勤用バッグと一緒に、床の上に置き、本人は、こたつでうとうとしていたのだが…


 夢うつつの中で。
 何だか、騒がしい。
 黒いものが、床で暴れている。
 地球外生物が、家庭外製造物を、攻撃しているらしい。
 エコバッグをひっかく音がする。
「こら!」と叫んではみたが、私の記憶はそこでフェードアウトした。


 後から考えるに。
 こいつも、実は年頃の乙女である。
 自身が幼年時代、不器量であったことにコンプレックスを抱き(現在のことには触れないでおく)、幼少時から美形であったダメちゃんに嫉妬したのではないか。
 惨めだった過去を消したい。
 その気持ちは分からないでもないが…


 だからって、何も、他人の過去を消すことはないと思うんだな。


 目が覚めてからよく調べると、何と、せっかくいただいたばかりのクリアフォルダーに数ヶ所、早くもキズがついていた。
 それでも、赤ニャンの顔が無事であったのは、それでもヨメがダメを愛し、彼のハンサムぶりを貴重に思っている、という証拠であろうか。
 屈折した愛である。
  
 
 しかし。
 それはそれとして、この暴挙はいかがなものであろうか。


 K先生、ごめんなさい。
 躾の行き届かないヨメで。