メディアの贈り物・その後
やる気のないメディアは、陰謀が露見し、グラウケが辛くも自らの魔手を逃れたことを知った後も、何の後始末もしようとせず、ひたすら成り行きに任せていた。
グラウケは当然のごとく、メディアが贈った輪ゴムを黙殺し続けた。
そうしているうちに、輪ゴムはいつしか、人の目の触れぬところに消え失せていた。
そして。
数日後、輪ゴムは再び、予告なく台所の床に姿を現した。
どこから?
誰が、引っ張り出してきたのか?
グラウケは相変わらず、メディアの輪ゴムを黙殺し続けている。
対抗するように、メディア自身も、その輪ゴムに触れることなく、ただ放置し続けたのであった。
が。
人間世界からの追放の後、舞い戻った輪ゴムは、いつしか別の魔力を身につけていたのである。
移動するのだ。
台所から、洗面所へ。
そして、浴室へ。
さらに、閉まっていたはずのドアを越えて、玄関へ。
メディアが帰宅すると、日々、別のところから輪ゴムは発見されるのであった。・
そしてある夜。
輪ゴムは、思いがけないところから発見された。
猫の水皿の底、である。
猫の領域を侵犯する、不吉な輪ゴムと闘うグラウケ。
しかし、水底にゆらぐ輪ゴムは、決死のミッションに没頭する彼女を嘲笑うかのように、その細い爪には決して引っ掛からないのであった。
ついに、力尽きるグラウケ。
そして。
安息を求める彼女は、何の考えもなく、水皿の水に口をつけたものである。
ちょっと待て、その水には毒が…
思わず、恋敵の自殺行為を止めようとしてしまうメディア。(この時点で本末転倒である。)
が。
グビグビと水を飲んだグラウケは、輪ゴムのことは既にどうでも良くなったらしく、元気にその場を歩み去ったのであった。
どうやら、メディアが仕込んだ魔薬は、水と反応すると毒性が消失する性質のものであったらしい。
割とショボい毒薬である。
こうして、グラウケの命がけの闘いにより浄化された輪ゴムは、彼女のお友達となった。
しかし。
幸せな時は、長くは続かない。
彼らの友情は、悲劇的な結末を迎えるのである。
三日後の夜。
グラウケは珍しく洗面台に上がり、洗面ボウルの中に入ったり出たりしていた。
何やってんだ?と、かすかな疑問は抱いたものの、やる気のないメディアは、このときも無視して放っておいた。
と。
メディアが別室で本を読んでいると、何やらカタカタ音がする。
後で洗面所に行ってみると、こんなことになっていた。
察するに。
グラウケと輪ゴムが、洗面ボウルの中で戯れている時、事故は起こったのだ。
グラウケは、友人を助けようとした。
排水口のヘアーキャッチャーを、苦労して引っ張り出したグラウケ。しかし…
切れた輪ゴムは、もはや輪ゴムではない。
移り気なグラウケは、メディアの台所から新たな輪ゴムを盗み出して戯れている。
(やる気のないイアソン)