ターキッシュ・ジェラシー

 

 
 夜。
 友人と食事に行き、帰宅すると、不可思議なことが起こっていた。
 昼間買ってきて、タンブラーに生けたトルコききょうが、数時間にして、5センチほども丈が伸びているのだ。
 まさか…
 活性水って、そんなに効くのか!?
 
 
 と、思ったら、そうではなく。
 茎が軒並み引っ張り出され、浮き上がっているのだった。
 
 
 やられた…。
 トルコききょうを買うのが久しぶりだったので忘れていたのだが、我が家では、唯一、トルコききょうのみがヨメの襲撃にあうのだ。
 なぜか知らないが、彼女はトルコききょうを見ると、花瓶から引き抜いて床に投げ捨てる。
 これまで、ヨメの襲撃により、脱水症状になって枯れたり、花弁がボロボロになってしまったりしたトルコききょうは数知れず。
 花弁が薄く繊細なだけに痛々しい。
 しかも、他の花は無視。トルコききょうのみ、なのである。
 こいつ、トルコききょうに、何ぞ恨みでもあるのか…!?
 
 
 かつて、植物に対するヨメの100年戦争において、攻撃の対象となったのは、鉢植えのライムポトスであった。
 ところで、猫好きな方ならご存知の向きも多いと思うが、ポトスは「猫飼いが室内で栽培してはいけない植物・その1」である。
 猫が齧ったりすると、毒になるらしい。
 ただ、我が家の猫どもの中には、一匹として、植木や花を齧る手合いはいなかったので、イカサマ猫飼いの私は、そのまま栽培していたものである。
 ヨメは、それまで前猫未踏であった飾棚の最上段に登り、ライムポトスの芽の部分を、いちいち掘り出して床に捨てた。
 ピンピンしているから、齧りはしなかったのだろう。
 おそらく、彼女は、この植物が猫の敵であることを察知して、敵の根城に壊滅的打撃を加えるべく、決死の闘いを挑んだのではないか。
 しかし。
 敵が絶滅する前に、ヨメはポトス掘りに飽き、闘いは終わった。
 ちなみに、掘り出されたポトスの芽の大半は、水栽培により元気に根っこを出し、今は元の植木鉢の中に帰郷している。
 
 
 ライムポトスを敵とみなす、のは分かる。
 じゃあ、トルコききょうは、なぜ?
 残念ながら、私が考えついた結論は、誰にでも思いつくような月並みな発想に過ぎない。
 即ち、彼女は、花の美しさに嫉妬したのではないか、ということ。
 
 
 だが、それなら。
 私がよく買ってくる、アルストロメリアやスプレーマム(いずれも、日保ちがして安価だからである)に対して、なぜ彼女は、攻撃しないのか??
 
 
 うーむ
 うーむ
 それは、だな。
 
 
 やっぱり、安くて日保ちがする、庶民的なこれらの花に対し、トルコききょうは、ヨメ的には、ちょっとセレブなイメージがあるのではないかと。
 花弁も、薄くて華奢だし。
 姿かたちも、優美・繊細なお嬢様系だし。
 癇にさわる、ってことなんじゃないかと。
 
 
 しかし、ヨメよ。
 世の中には、バラも蘭も、カサブランカもある。(私自身も、そのくらいしか思いつかないあたりが庶民である。)
 私が買ってこないから、アンタは知らないだけ。
 トルコききょうは、むしろ庶民的な花なんじゃないかと、私は思う。
 
 
 だが、ヨメには、セレブな世界は見せずにおこうと思う。
 変な気をおこして、
「もっとセレブな夫がほしい」
 とか、言われると困るからね。
 
 
 だから、こんなお写真は、ヨメには隠しておこう。
 
 
 
(R家のコタロー王子。ダメちゃんより3カ月若い。)
 
 
 庶民は庶民のまま、身の丈の幸せを満喫しよう、というのが、我が家の家訓である。
 
 
 

 

 
 
いや、そもそも誰も歓呼していないから。