ハナからハナへ

 

 
 実家のななちゃんは、動物病院でも感心されるほどの、真っ白白の白猫である。
 被毛が混じりけなしに白い上に、掻き分けても全く地肌が見えないほど、生え方が密集していて、他の色合いが入る余地がないのが勝因らしい。
 緑がかった目といい、ピンクの耳や肉球といい、ピコピコ動く曲がり尻尾といい、彼女は実に愛らしい、ぬいぐるみみたいなアイドル系の容姿なのであるが…
 
 
 ただ一つだけ、難点が…
 
 

 
 
 鼻くそ猫なのである。
 
 

 
 
 鼻の周りにちょっとだけ色の違う毛が生えている猫を「ハナクソ」などと言ったりするが、ななちゃんはホンモノの鼻くそ猫である。
 ヨソでも時々、こういう猫を見かけるので、体質みたいなものだと思うが、しじゅう鼻に黒いものがついている。おそらく、鼻の粘膜あたりから何か分泌されるものがあって、それにホコリや何かが混じって、こびりつくのであろう。
 取ってやりたいが、けっこうガッチリと貼りついていて、なかなか落とせない。無理に剥がそうとすると、痛いらしく嫌がる。放っておけば、数日で勝手に剥がれるので、結局は、成り行きにまかせて放置することになる。
 この「鼻くそ」がなければ、鼻もピンクで可愛いのに。
 人間、とくに、たまの里帰りの時しか会わない私にとっては、実に気になるものであるが、本猫は全く気にならないらしい。なお、ななの「鼻くそ」は、かなり頻繁に出る。私なんぞは、「鼻くそ」のついていない彼女に、もう数年来、お目にかかっていないような気がする。
 
 
 この「鼻くそ」。
 最初は、ハナミズが原因かと思った。
 が、まず、場所が違う。ハナミズなら鼻の穴より下側につくと思うが、たいてい、鼻の上の方についている。
 そしてまた。
 決定的に「違うな」と思ったのは、実はミミさんに出会ってからだった。
 ミミさんは、慢性鼻炎で、常にじんわりとハナミズが出ている猫だった。
 が、ミミさんには、「鼻くそ」はできなかった。
「鼻くそ」がない分、見た目には目立たなかったが、彼女自身にとっては、常にハナミズで鼻が湿っているのは、相当不快だったろうと思う。人間だって、風邪をひいたりしてハナミズが出始めると、すぐに鼻が痛くなるのだから。
 
 
 そういう私自身が、何を隠そう、今日はハナミズがじわっと出て、鼻が痛い。
 くしゃみも出る。
 風邪をひいている様子もないのに。
 花粉だろうか。
 でも、今頃って…一体、何の花粉なんだろう。
 
 
 閑話休題
 今年も、闘いの季節が巡ってきた。
 誰との闘いかって!?
 言わずと知れた。泣く子も黙る、抜け毛大魔王である。
(まだ大丈夫。まだ大丈夫。)
と、自分をごまかしながら、現実に目をそむけてきたのだが…そむけきれなくなった。
 大魔王の背中がザラついている。
 彼に顔を近付けると、自分の顔に毛が生える。
 そして。
 彼自身、グルーミングしながら、自分で「ペッペッ」とやっている。
 
 
 あああ…。
 ついに、始まってしまったのだ。終わりのない泥沼戦の季節が。
 安息の日々は終わった。
 ため息とともに、ブラシに手を伸ばす私であった。
 
 
 で。
 初戦の成績は、こんな感じ。
 
 

 
 
 ま、最初はこんなもんでしょう。
 
 
 断わっておくが、これだって、相当きつく丸めてある。床に落とすとバウンドする程度の固さはあると思ってほしい。
 
 
 猫のブラッシングなんて、優雅なペットのお世話、だと、知らない人は思うことだろう。
 とんでもにゃい。
 程度問題である。
 確かに、ミミさんの場合は、可愛かった。楽しいブラッシングであった。
 が。
 抜け毛大魔王をブラッシングすると、舞い上がる抜け毛が、いちいち顔に貼りつくのである。
 しかも。
 一部は、鼻の穴にもに入る。
 不快であること、甚だしい。
 
 
 あ。
 そこで気付いた。
 
 
 まさかまさか、だけど。
 私のこのハナミズは、ひょっとして、抜け毛大魔王の攻撃によるものでは?
 ひょぇぇぇぇ〜
 まさかまさかの、恐ろしい予感に、思わず戦慄した私であった。
 
 
 その後、夜になってからは、ハナミズは止まっている。
 ということは。
 今日は風が強かったから、きっと、外から吹き込んできた何か(花粉?)がアレルゲンだったのであろう、ということにした。
 でも、大事をとって、大魔王に顔をくっつけるのは、やめておこう。
 彼にも、あまり暴れずに、静かに過ごしてほしいものである。
 
 
 と、思った矢先。
 そういえば… あれ!?
 
 
 昼間の毛玉ボールが見当たらない。
 おい、お前ら、一体どこに隠したんだ!?
 
 
 おもちゃにしても構わないから、分解して拡散させるのだけは、勘弁してよね。
(鼻に入ったらどうしてくれる。)
  
  

 別にアンタのせいになんか、してないってば。
  
  
 そういえば、実家のななちゃんも、抜け毛女王である。
 何しろ、掻き分けても地肌が見えないくらい、被毛が密生しているのだから。
(毛深いとも言う。) 
 
 
 

アンタは、また今度ね。