家主帰る。

  
 
 
 今日は、出張から戻り、久々の出勤である。
 職場の皆さんが「大丈夫?疲れてない?」と、心配して下さる。
 有難いことである。
 廊下で天竜いちごさんに会ったので、
天竜さん!!会いたかったよぉ〜。」
と、感動の再会をひとり演じてみたところ、
「大丈夫ですか?」(←どういう意味で?)
と、冷静に返された。
 うちの猫どもにも、このくらいの優しさが欲しいものである。
 
 
 と、いうわけで。
 さてさて、お待ちかね。昨日朝の「感動の再会」は、いかがであったか、というと・・・
 
 
 ドアを開けたとき、猫どもは二匹とも、逸走防止のため玄関に設置してある竹カーテンの向こうで待っていた。
 物音を聞いて、「誰か来る」と、勘付いたのであろう。(朝メシ時だし。)
 で。
 入ってきたのが私だと分かると…。
 
 
 私が誰であるかは、かろうじて覚えていたらしい。
 が。
 逃げた。
 というより、後退りした。
 その目は、あたかも、幽霊を見た人のそれであった。
 
 
 死んだはずだよ、お富さん、ってとこか。
 
 
 いや、最初から大した期待はしていなかったけどさ。
 ひょっとしてひょっとしたら、走り寄ってくる、とか、ニャーニャー鳴きながら、足元に纏わりついてくる、なんてこともあるかもしれない、と、内心、ちと思わないでもなかったんだけどね。
 やっぱり、有り得ないことであった。
 まあ、覚えていただけ、上等であろう。
 
 
 で。
 その後、遅ればせながら、ダメはニャーニャー言いながら、私へのストーカー行為を始めた。
 だが、勘違いしてはいけない。それは「朝メシくれ」という要求活動の一端であった。
 それは、もちろん想定内。
 だが、朝ごはんを食べた後も、私に向かってニャーニャー鳴きながら、後をついてくる。
 それって、可愛いと思う?
 いやあ、あんまり可愛くないんだな、これが。
 目が真剣すぎる。
 ところで、家主は夜行バスでほとんど眠れず、フラフラである。このため、一動作ごとに床にひっくり返って、ゴロゴロしている。
(註:その日はマンションの消防点検が来ることになっていたので、寝るわけにはいかなかったのである。)
 朝ごはんだって、気力で何とか出してやったのだ。
 だが、奴は、それでは満足しない。
 足りないのは、愛だろうか…。(逃げたくせに。)
 いや、そうではない。彼の要求は「ウンコがしてあるからトイレ掃除してくれ」だった。
 
 
 なぜそれが分かったかっていうと。
 フラフラの家主が、フラフラしながらやっとこさトイレ掃除をし終えると、間髪を入れず、奴は悠々と殿堂入りし、堂々たる金字塔を打ち立てたのである。
 
 
 思いやりが、なさすぎる…。
 
 
 これで、愛を求められたってね。
 人間は、神様じゃないんだよ。
 キミが私への愛より生理的欲求を優先させたように、私だって、愛より先にキレようってもんだ。
 
 
 ま、そんなこんなではありましたが。
 その後は、お約束の「脚にくっつきダメちゃん」(暑い…)となり、一応、愛は復活したのでありました。
 
 

 
 
 ところで。
 ここまでの話に、ヨメは全く登場しないのであるが。
 実は、これらのハナシには続きがある。
 
 
 前日、姉からメールが来ていた。「傘を忘れたから取りに寄る」と。
 さらに、朝、「無事帰ったよ」コールを実家に入れ、「お土産がある」と話したところ、それなら、ついでに顔見に行くわ、ということになった。
 そして、夕刻。
 昨日までと同じ、魅惑の玩具を携えた、「体操のお姉さん」登場。
 ところが。
 有り得ないことに。
 
 
 逃げたのだ。ヨメの奴。
 
 
 玩具を振っても、椅子の下から出て来ない。
 姉のショックは、いかばかりか。
 あたしゃ、もう用済みかい!!と、怒る怒る。
 ヨメの評価は、当然、ガタ落ちである。
 結局、最後には「いいもん、うちには可愛いななとりりがいるんだからっ!!」
と、両者の関係は、あえなく決裂したのであった。
 一体、何だったんだ。この二週間は。
  
 
 ひょっとして、ヨメの奴、本来の飼い主である、私に取り入ったつもりだったのだろうか。
 だとしたら。
 彼女は、策を弄し過ぎて自滅するタイプだった、ということか。
 全く、要領がいいんだか、悪いんだか…。
 
 
 そんなわけで。
 結局、我が家は相変わらず、何事もなかったように、人も猫も好き勝手にやっている次第である。
 
 

(PCデスクの椅子の下でたむろしているところ)