人間用か猫用か

 

  
 
 前回に引き続き、模様替えシリーズ。
 
 
 ビーズクッションを買ってきた。
 実はこれも、冬支度である。
 我が家はマンションの南向き中住戸なので、冬場、リビングは昼間の日差しと他の部屋から貰う熱で、夜になっても結構暖かい。そこにこたつを置くので、寒くなると、私は事実上、ワンルーム生活に入る。
 一方、PCを置いているデスクは、北側の部屋にある。一応、そこが「勉強部屋」なのだが、当然ながら、北側なので寒い。
 PC作業だけは、こたつで長時間は姿勢に無理があるので、寒くなってもデスクでやるぞ!と、毎年決意して、結局、毎年挫折する。一度でもPCをこたつに置いたら最後、もう二度とデスクには戻れず、足が痛いの腰が痛いの言いながら、ずるずるとこたつPC生活を続けることになる。
 と、いうわけで。
 我が家にPCが導入されて11年。学習能力が低い私も、11年目にしてようやく観念した。
 だったら、こたつでPCが使いやすい環境を整えた方がいい。
 具体的には、こたつの高さを上げ、少し高さのあるクッションに座るようにする。
 そういうわけで、思い立ったが吉日、さっそくクッションを買ってきた、というわけ。
 
 
 クッションの入った大きな袋を提げて、家路を辿りながら、道々考えた。
 ダメちゃんは、嫌がるかもしれない。
 警戒して、しばらくは遠巻きに見ているだけだろう。
 そのうち慣れれば、上に乗って寝たりもするだろうけど。何しろ、我が家の猫どもは、これまでの3匹とも無駄に用心深くて、私が奴等のために買ってきたものは、何でも、最低一年は飾り物になってしまうのだ。
 この夏導入した「冷感ジェルマット」も、結局、一度も使ってもらえなかった。仕方なく、アルミのクールボードの下敷きにして、間接的に熱を吸い取らせるツールとして使用したのだった。
 アルミは固いから、柔らかい敷物が好きなダメちゃんのために、喜び勇んで注文したのに。
 アルミと違って、本当にいつまでも冷たくて、柔らかくて、やっぱり人間用にネコババしちゃおうかな、と思っちゃうくらい、自信をもってオススメの品物だったのに。
 でも、まあ、いいか。
 このクッションは、最初から人間用に買ったのだから、ダメが気に入ろうと気に入るまいと、そんなことはどうでもいいことなのだ。
 何もそこまで、猫におもねることはない、と、忘れていた人間の誇りを取り戻した私は、堂々たる足取りで我が家のリビングへと凱旋したのであった。
 
 

(見向きもされなかった冷感ジェルマット)
  
 
 包装のビニール袋を開けるのももどかしく、クッションを引っ張り出す。
 思えば、この家に引っ越してくる前から、「リビングにビーズクッション」は、憧れなのだった。
 本当は、「無印良品」で売っている、ソファー型のビーズクッションが欲しかったのだが、値段を見たらお高いのでやめた。他の店で、普通の丸いクッションを買ったのだが、置いてみたところ、大きさ的に、実にしっくりとくる。これなら、あと2個くらい置いても大丈夫そうだ。
 しばし眺めた後、どれどれ、と座ってみて、大いに満足した。
 ちょうどいい高さ。
 それに、想像したより、ずっと安定がいい。腰の位置がぴたりと決まるので、背もたれがなくても、楽に姿勢を保持できる。これなら、長時間PCを使っても、足腰が痛くなるようなこともないだろう。
 それに、ね。
 何といっても素晴らしいのは…
 
 

  
 
 何と、ダメちゃんと一緒に座れたのだ!
 
 
 私が悦に入りつつクッションに座り込んでいたら、
(何してるの?)
と、彼の方から寄ってきた。
 クッションの匂いを嗅いでから、周囲をうろうろしているので、抱き上げて乗せてみた。
 座布団で膝にもたせかけるときの要領で、両膝を開き、膝の間にダメを座らせる。
 私はクッションの後寄りに座っているので、重心が後ろに傾き、このため前側となる膝の間の空間にビーズが集まって盛り上がる。結果、ダメの乗るスペースは軽く後傾するので、彼は落ちそうになることもなく、私の両脚の間にすっぽりと収まる形で、居心地良く安定するのだ。
 彼は私の膝に頭をもたせかけ、ゴロゴロと喉を鳴らした。
 ああ、猫ってあったかい…。
 人間にとっても無理のない体勢である。座布団に横座りと違って、途中で脚が痛くなることもない。
 素晴らしい。こんなことなら、早く買えばよかった。
 
 
 と、いうわけで。
 とりあえず、手元にあった生協のカタログを眺めながら、30分ほどもそうしていたであろうか。
 実は私は、外出から帰ってすぐ、閉め切っていた室内が少々暑かったので、窓を開けて長袖のパーカーを脱ぎ捨てたまま、早い話が、ジーパンの上に半袖のTシャツ一枚という服装であった。
 そうしているうちに。
 あれれれ。
 何だか、寒くなってきた。
 Tシャツの丈が短めなので、背中がスースーする。
 クッションの後ろの方に座っているので、腰回りも包みこまれていない。風の抜けるまま、である。
 いくら南向きの中住戸だって。
 曇って日の差さない天気で、窓を開けたまま、さすがに半袖は辛いよ。
 早く降りてくれないかな…
 でも、こいつ、私の腕や足にもたれたまま、グルグル言いつつ、すでに寝る体勢だし。
 寒さ対策の一環で買ったはずのクッションに座って、むしろ鼻風邪を悪化させている私であった。
 
 

(握手〜!)
 
 
 その後、ダメが膝から降りたので、台所に立って洗い物をしながら、ふとリビングの方を見て驚いた。
 私の心配をよそに、ダメの奴、早くも勝手にクッションの上に座っていたのである。
(写真はありません。撮ろうとしたら、気配を察して降りてしまったため。)
 
 
 要するに彼は、ちっとも、ビーズクッションを警戒しなかったのだ。
 
 
 じゃあ何で、「冷感ジェルマット」は使わなかったんだ。
 アルミのクールボードも、大理石のボードも、今でこそ夏の必須アイテムだけど、2年くらいは見向きもしなかったぞ。
 ラタンの猫ベッドだって、ずいぶん長いこと、誰も入ろうとしなった。(今もだけど。)
 段ボールの爪とぎは、付属のまたたび粉のニオイが移ったため、ダメちゃんがヨダレだらけにしてさんざん食いちぎったが、ニオイが消えた後、彼はその横にある食卓下のカーペットで爪をとぐ今日この頃である。
 
 
 そこまで考えて、はっと気が付いた。
 要するに。
 きゃつらは「猫用」と銘打たれたものには、まずハナもひっかけないフリをするのだ。
 人間用のものなら、堂々と使う。
 どうなんだろう、このひねくれぶり。
 
 
ペピィ」に載っていたふわふわの猫ベッド、いずれ買ってやろうと思っていたけど、やめた。
 猫バカは、猫グッズに命を懸けたがるけど(実は私も)、これほど馬鹿らしい行為はないのである。
 
 
 ところで。
 ヨロコビの余り、袋から出してそのままクッションを置いていた私は、夕刻になって、ようやく気付いて値札と品質表示の商品タグをはずした。
 その商品タグを、あらためてゆっくり読んでみると…
 
 
「布地に穴があくとビーズが流出しますので、投げたり、踏みつけたりなどの衝撃は避けて下さい。ボールペンや定規など先の尖ったもので傷つけないで下さい。破損の原因となる場合があります。」
 
 
 って、これ…。
 要するに、猫使用禁止やん。
 
 
 猫グッズは猫が使わず、猫が喜ぶ人間用グッズは、猫使用禁止。
 じゃあ、いったい、どうしろと…。
 
 
 だったらいっそ、人間が、あのふわふわの猫ベッドで昼寝したいじゃないの。
 
 
 

 
 そうだよね。だから猫なんだよね。