残念な黒白猫
新猫の件。
長いこと更新をサボっていたので、その間の経過を。
11月上旬にCats安暖邸に遊びに行き、「キグルミくん」をオファーしたが、結局、縁がなかったくだりは、前に述べた。
その後、「こんど安暖邸に新しい猫が来ます」というYuuさんからの情報を頼りに、待つこと1ヶ月弱。毎日、安暖邸のブログをガン見して、ようやく、新しい猫が来たという記事に出会った。
それなら行ってみよう、と、友人さくらに同行を頼み、Yuuさんに「行きます」メールをしたところ、
「新しい猫は2匹だけです。13日にたくさん連れて行きます。」
というお返事が。
さらに、その際はYuuさんご自身も安暖邸にいらっしゃることも分かり、急遽、予定を14日夜に繰り延べ。さくらと二人、仕事が終わってからお邪魔することにした。
こうしたやり取りの間も、Yuuさんのブログは毎日チェックさせていただいていたのだが、その中に、お山で保護されたという、黒白タキシード猫がいた。
タキシードにソックスをはいている子で、顔も上半分は八割れ。よい柄のはずなのだが、なぜか顔の下半分に半端なブチがあり、非常に残念な配色である。
というより。
きれい(可愛い)を狙ったのか、面白いを狙ったのか、どちらも中途半端で残念、というべきか。
とにかく、残念な柄の猫である。
そこで、ついでと言っては何だが、Yuuさんに
「この子は来ますか?」
と訊いてみた。
すると、
「実は、お勧めしようと思っていました。」
とな。
理由は
「人懐こくないし、逃げるし。」
だ、そうだ。
なるほど。
中身まで残念だったわけである。
となると、やはり、こいつだろうか。
いずれにしても、他にサビ猫なんかも連れて来てくれるというし、まあ今度は決まるだろう、と、一応期待しつつ、いそいそと安暖邸に出向いた私である。
果たして、その黒白猫は、いた。
まだ2カ月くらいだそうで、写真で見るより、ずっと小さかった。他の仔猫たちは、みな3カ月以上で、中猫もかなり混じっていたから、そいつだけがひときわチビであった。
仮名は、アタゴくんというらしい。
理由は、愛宕山のてっぺん(?)の駐車場で保護されたから。
事前にその名前はブログで読んでいたので、もしかしてこいつのことかしら?と思い、昼間のうちにウィキで「愛宕山」を検索していた。結果、この名前の山は、日本全国に数限りなくあることが分かった。
となると、「アタゴ」という、一見個性的なネーミングも、実は若干オリジナリティが薄いということになり、この辺りもイマイチの残念さである。
このアタゴくん、駐車場を彷徨いつつ、ひとりで鳴いていたそうだ。保護なさった方は、近くにきょうだい猫がいるのではないかと考え、ずいぶん探されたそうだが、結局、これ一匹しか見つからなかったという。
そもそも、一匹だけで生まれたのか。
あるいは、きょうだいの中で一匹だけ、引き取り手が見つからずに捨てられたのか。
あるいは、あまり考えたくないが、他の子たちは、お山の寒さに耐えられず、すでに他界してしまっていたのか。
だがもう一つ、可能性がある。
誰か他の心ある方が、実は既に、他の子たちを保護していたのだが、その肝心の瞬間に、こいつだけトイレにでも行っていて、乗り遅れたのかもしれない。
どこの幼稚園でも、クラスに一人くらいは、こういうドンくさ…もとい、おっとりしたお子さまがいるものである。
もちろん、真相は知るべくもないのだが、個人的には、この最後の説がイチオシだと思った。
理由? そんなものは、ない。
このお坊っちゃまが全身から醸し出す残念さが、ただ、ただ、私にそう思わせたのである。
安暖邸の猫たちは、押し並べて、元気で人懐っこい。
その日も、カーペットの上に座っていると、膝に乗ってくる奴やら、背中に登ってくる奴やら、腕にしがみついてケリケリしてくる奴やら、頼んでもいないのに、次々に猫が絡みついてきた。
おもちゃを手にすれば、あっという間に4匹も5匹も猫が釣れる。
夜の安暖邸にお邪魔したのは初めてであったが、やはり、夕方以降の方が猫は活発になる。お客は私達以外にも2〜3人いて、皆さん、上手に遊ばせていたので、仔猫も大人の猫も、夢中になって遊び狂っていた。
そんな中、その黒白猫がどうしていたかというと。
そういえば…と、ふと思いついて眼で探すと、たいてい、いない。さらに気をつけて部屋中を見回すと、隅っこの方で、おもちゃ相手にテシテシテシ…と、熱心にひとり遊びを続けている。
私の視線に気付いて、Yuuさんがその都度、つかまえては連れて来てくれるのだが、連れて来られたそいつは、ひとしきり猫集団の中をうろうろして、いい加減、こっちが見飽きたころ、気が付くと、また隅っこの方でテシテシやっている。
別に、他の猫に遠慮している様子でもない。
人間がキライなわけでも、ないらしい。
Yuuさんがまたしてもつかまえて、私の膝に乗せてくれたりすると、とりあえずそのまま座っている。そして、そのまま、何をするわけでもなく、黙って降りる。
抵抗するほどのファイトもない。
基本的に、世の中というものに、興味がないらしいのである。
まあ、まだ、ちっちゃいからね。
と、いう辺りを割り引いてみても、やはり、仔猫らしい愛嬌にイマイチ欠けるキャラであることは、否めないと思った。
そう。
全てにおいて、残念オーラが静かに滲み出ている猫だったのである。
その残念オーラでさえ、中途半端すぎて、へそ曲がりな私にさえ、
「ヨシ、こいつだ!」
という、決断に至らない。
かといって、他の可愛い猫たちは、当初の趣旨とは違う気がして、予想どおり、激しく迷うこととなった。
が。
天は私を見捨てていなかった。
そこで、決定打が出たのである。
「アハハハハ。」
友人さくらが、急に笑い出した。
彼女が見ていたのは、Yuuさんの手でいじられ、お腹を出したその黒白だった。そのとき、私は、別の猫に構っており、間に他のお客さんもいて、黒白が見えていなかった。
「この子、白パンはいてるわ。」
私は思わず、構っていた猫を離し、首を伸ばしてそちらを見た。初めて見た、そいつの腹部。そこには、真っ白い三角のブリーフラインが、くっきりと刻まれていたものである。
タキシード。ソックス。そして、白パン。
それって、言い換えれば、変質者柄ではないだろうか。
何と。
何とまあ、すこぶる残念なことか。
こいつは、本当に、涙が出るほど残念な生まれつきであったのだ。
こうして、私の長きにわたる猫探しの日々は、ピリオドを打った。
その後、お正月まで長いお休みが取れないので(三連休はすでに、来客と外出で全部潰れていたので)、29日の引き取りを約束し、私たちは安暖邸を辞した。
さくらと夕食を取りながら、名前を何にするか検討し。
29日に引き取りに行く際の打ち合わせをし。
久々に気分が盛り上がった。
引き取りまでに、2週間ある。その間に、もう少し大きくなるだろう。今度は、楽しみな「待ち」の期間である。
で。
友人こっこやら、猫カフェ荒らしのSさんやら、実家の姉やら、あちこちにウキウキと決定報告しつつ、その2週間を過ごし。
そしてついに、猫山家に新猫登場――という展開だと、思うでしょ。
ところが、残念。
まだ、あったのだ。
「近くなったら、また連絡ちょうだいね。」
と、Yuuさんには言われていて。
いや、確かに、悪いのは前日まで連絡しなかった、私の方だわさ。
まず、さくらが29日に予定が入ってしまい、代わりに、姉を誘ったのだが、待ち合わせ時間をどうしようか、などと、考えているうちに、前日になってしまったものである。
28日の朝、出勤途中に、Yuuさんにメールを送った。
そして、午後。
休憩時間にメールをチェックすると、返信があった。
そのタイトルが「アタゴの件です」となっている。
それを見た瞬間に、いやーな予感がした。
またか。
きっと何か、不測の事態が起こったのだ。
果たして、その予感は当たっていた。
のっけから、「アタゴですが、現在安暖邸におりません」というお知らせだったのだ。
小さいので、夜間無人になる安暖邸には置いておけずに、○庵サテライトに連れ帰り、そして今、風邪をひいているそうな。
ただし、「薬つきのトライアルで良ければ、今晩、お届けします。」と。
つまり。
まだ一度しか会っていない仔猫に、毎日投薬するという試練をとるか、それとも、後日、山梨まであずさに乗って迎えに行くという手間をとるのか。3時間か4時間の間に、いきなり結論を出さなければならないハメに陥ったのだ。
どどど、どうしよう。
それに、今日は、仕事納めの後、さくらと映画を観に行く約束をしている。
今日、「お届け」してもらうなら、今日のさくらとの約束も、明日の姉との約束も、キャンセルしなければならない。
そして、急いで家に帰って、大車輪で部屋を片付けないと。
しかし、ここでも、天は私に味方した。
同時に、さくらからもメールが届いており、「予想外に早く上がれることになったので、いったん家に帰ります」と。
ヨシ、さくらに相談しよう。
仕事納めが済むのを待って、さくらに電話し、散々話し合った結果、やはり、
「今日連れてきてもらった方がいいよ。」
ということになった。
と、いうわけで。
電話が終わった後、まだ職場に残っていた天竜いちごとヨシハル♀に、「猫が今日来るぞ!」と宣言し、部屋を片付けるべく、冷たい冬の雨の中を、急いで自宅に向かった私。
そして。
家に帰って、お届けを待ったのでした――という展開だと、思ったでしょ。
ところが。
地下鉄に乗り、一息ついて携帯を開くと、またもや、Yuuさんからメールが。
「山梨地方、大雪で動けなくなりました。」
おいおい。
またかい。
どこまでアテが外れるんだ。
まあ、考えようによっては、最初から予定は29日なのだから、本来の流れに戻ったわけなのだが、私の足はもう、何も考えることなく、地下鉄を降りていつものバス停へと向かっていた。
もう、今更、映画を観に行く気力は失せていた。私も、さくらも。
ああ。
猫をもらうって、こんなにタイヘンなことだったんだろうか。
これまで、猫と言えば「ください」「はい、どうぞ」で、あっさりと家に来るものだと思っていた。
さくらにそれを言うと、彼女の場合なんぞは、「はい、どうぞ」どころか、全部、成り行きでやってきた連中だと言う。
「回転寿司で、何だか知らないけど、私の名前の首輪つけた猫が、皿に乗って流れてくるようなもんなのよね。え、アタシこれ、取らなきゃならないの?どうしよう、もう2周しちゃったよ、他に誰も取らないし――っていう感じで。」
そう。
猫を迎えるって、本来、そういうものではないのか。
何だって、猫一匹迎えるのに、4か月もかかるのだろう。
これで、ようやく迎えてみたはいいが、大治郎氏の許可が下りなくて、破談にでもなってみろ。私はぜったい猫不信になるぞ。
さて。
夜も更けた。
今は日付変わって30日の未明である。
結論から言うと、残念な黒白猫は、今、我が家にいる。
ここまで書いた内容は、本当は昨日の記事にするはずであったのだが、1日遅れとなってしまった。
新猫登場の模様は、明日(できれば)報告したいと思う。
いやはや、長い道のりであった、とだけ、現在の感想を述べておく。
最後に、もうひとつ。
Yuuさんのメールには、黒白の風邪の症状、「青ッ鼻が出ています」とあった。
実際、さっきから奴は鼻をグスグス言わせている。
タキシード。ソックス。白パン。そして、青ッ鼻。
本当に本当に、あまりに残念すぎる猫なのであった。