下半身の話


 冒頭の写真は、8月18日の記事に添付したものである。
 コメントにあるように、アタゴロウは股関節が柔らかい。
 実は、この写真を撮った段階では、そう見えるのは私だけかもしれない、と密かに危ぶんでいた。だが、少なくともこの写真については、他の人にもそう見えたらしい。
「いるのよ、股関節の柔らかい猫って。うちのアメショ達がそうだったわ。」
 友人さくらは言う。
「だから、下半身が安定するの。アタゴロウくんも、きっと立つようになるわよ。」
 そういえば、かつてさくら宅では、アメショの雄たちが立ち上がってボクシングの試合をしていた、という話を聞いていた。
「スコ座りができるんじゃない?」
 友人こっこが付け加えて言う。
 立ち上がったり、スコ座りしたり。
 なるほど。
 股関節がやわらかいのも、芸のうちである。
 ううむ。
 ブログへの動画投稿に向けて、YouTubeデビューの方法を調べておいた方が良いかもしれない、と、一瞬、真面目に考えてしまった私である。
 
 
 別に動画を撮る必要はないことだが、おそらく股関節が柔らかいが故であろう、アタゴロウは、よくこんな寝方をしている。
 
 

 
  
 ヘソ天が多い。
 しかも、大股開きである。
 
 

  
  
 猫、とくにオトナの猫が、こんな姿勢で熟睡するものだろうか。
 そもそも、四足動物の体は仰向けに適さないのではないかと思う。どう考えても、足のやり場に困るはずだ。事実、同じ猫でも、ダメちゃんの仰向けはほんの短時間である。
 だが、アタゴロウの仰向けを見ていると、後足が大股開きゆえに下半身が安定してしまっている。どうやら、この辺りがヘソ天熟睡の秘訣らしい。
 これも、芸のうちに入るのだろうか。
 
 
 さくらの「下半身安定」発言以来、アタゴロウの遊び方を、期待をもって観察してきた私であるが。
 そういえば、こいつはジャンプをしないな、ということに気が付いた。
 大好きなネコジャラシを出すと簡単に食い付くのだが、高い位置で振っても、立ち上がって前足を繰り出してくるだけで、ジャンプして向かって来ようとはしない。
 立ち上がり姿勢での滞空時間は、確かに、ほんのこころもち、長いかもしれない。
 はたから見ると、実に横着な遊び方に見えるのだが、それは、玩具と猫との位置関係の問題なのかもしれない。何しろこっちも、片手間にその辺に落ちているネコジャラシを拾って、座ったまま振っているだけだから、彼的には、単にジャンプする必要性を感じないだけ、ということも考えられる。
 と、いうわけで。
 昨夜、違う玩具で試してみた。
 使用したのは、コレ。



  
  
 釣り竿式ネコジャラシ
 我が家の猫が、歴代、例外なく食い付いたシロモノである。
 私は猫を遊ばせるのが苦手なのだが、そんな私が使っても、この玩具なら、確実に猫にウケる。特に若き日のダメちゃんは、怖いくらい本気で突進してきては、ひねりを加えたコンビネーションジャンプを、何度も華麗に決めてみせたものだった。(2010年5月10日の記事「大治郎 vs 大輔 」参照)
 ひもを短めにして、猫の頭より少し高い位置で揺らしてみる。
 と。
 ジャンプした。
 何だ、お前、ジャンプできるんじゃないか。(当たり前だ)
 と言っても、こう言っちゃナンだが、ダメちゃんと比べると低いし短い。
 角度も、ダメやヨメのように、垂直に近い高跳び系ではなくて、走り幅跳びに毛が生えたくらいの、ゆるい角度の跳び方である。
 それ以外は、相変わらず、座ったまま伸びあがっている。
 そこで、もっと高くしてみることにした。
 
 

   
  
 自分が椅子の上に立ってみた。
 が。
 こいつ、自分が伸びあがって届く高さより獲物が上にあると、狙っているだけで攻撃してこないのである。
  
 
 結局、写真が撮れなかったので、一夜明けた今日、改めてやり直し。
 
 

 

 

  
  
 がっつり、食いついては、くる。
 走り回るし、ジャンプ的なことも、する。
 だが。
 いずれの写真も、後足が床から離れていないことは分かると思う。
 もちろん、シャッターの切れたタイミングの問題もあり、特に昨夜、椅子に乗った時など、実際には床を離れている瞬間もちゃんとあるのだが、何しろ、短い。ジャンプが致命的に低いのである。
 だいいち、そもそも、あまりジャンプする気がない。というより、ジャンプとはかけっこの進化したものだ、と、勘違いしているようなふしがある。
 失望した私は、いにしえのスター、大治郎くんに、華麗なジャンプテクニックを見せてほしいと願った。が、年齢を理由にすでに現役を引退した彼は、決して銀盤に降りようとはしなかった。過去の栄光のイメージを壊すことを嫌った故かもしれない。
 
 
 

  
   
 以上の検証の結果。
 やはり、アタゴロウには、ジャンプするより、立ち上がって何とかしたがる傾向があることは認められた。
 ジャンプはしたがらないが、立ち上がる方は、割と気軽にやるようだ。
 これが股関節の柔らかい猫の特徴なのだろうか。
 立ち上がりが得意だからジャンプしないのか、ジャンプが不得手な分、立ち上がりの練習を積む結果になっているのか、その辺は分からない。
 股関節が柔らかいため、下半身は安定するが、逆に、柔らかい分、踏み切りのバネが弱いのかもしれない。
 だが。
 少なくとも、こいつは、ジャンプの練習不足である。
 何度も試みているうちに、私は気付いてしまったのだ。
 
 
 こいつ、着地が超ヘタ。 
 
  
 着地の瞬間、ズルっと滑ったり、バランスを崩したり、下手をすると脇腹から倒れ込んだり。きれいにストンと着地することなんて、多めに見積もって3回に1回くらいである。
 日々、暴れまわっているので、気付かなかったが、こいつ、ひょっとして運動神経が鈍いのでは…という気が、うっすらとしてきた。
 この醜態を晒したくないが故に、奴はジャンプをしないのかもしれない。
 運動が苦手な故に、体育の時間をずる休みしたがる小学生男子みたいなものである。
 
 
 ところで。
 ここまで読んでいただいた皆さんの中には、別の意見をお持ちの方もいらっしゃることだろう。
 実は、私も、内心ではそう思っている。
 だが、飼い主であり、保護者であり、管理者である私が、自らそういうことを、こうした公の場で表明するのは、やはり、差し障りがあるのではないかと思うのだ。
 しかし、ここでその問題に触れるのを避けるのは、やはり公正とは言えないだろう。であるから、ここはひとつ、誰にも聞こえないように、小さな声で言おうと思う。
 
 
 こいつ、本当は、下半身が重すぎて、ジャンプしても体が上がらないだけなんじゃないか…。