黒缶問題の行方


 前回、玉ちゃんが暴露したように、現在のところ、うちの猫どもは、普通に黒缶を食べている。
 このまま黒缶が我が家のレギュラーフードとして定着しそうな勢いであるが、数ヶ月前には、もう誰も食べてくれないかと思った時期もあった。
 以下に記録として、その経緯を(覚えている限り)書いておく。
 
 
 ブログの日付を見ると、「黒缶時代」の記事を書いたのが五月一日。
 記憶が定かでなかったので、クレジットカードの利用明細から推測するのだが、この時点で、私はすでに二回、黒缶を大量購入していたらしい。(どれだけ記事にするのが遅いんだか…)
 一回目の購入の経緯はすでに書いた。どうやら、一回目の購入は一月末くらいであるようだ。つまり、つまり、うちの連中の「一応黒缶食べます」時代は、二ヶ月くらいは続いたのだ。
 一回目の購入は確か四種類だったが、「どうやら問題なく食べてくれそうだ」と甘く見た私は、二回目購入に当たっては、ありったけの種類を購入した。六種類である。なお、二回目購入の時点で、旧パッケージのものはほぼ売り切れていたらしく、六種類のうち一種類だけが旧パッケージで、残り五種類は、新パッケージのものであった。
 ちなみに、一回目の購入量は、だいたい三ヶ月もつくらいはあったと思う。つまり、二回目の大量購入(五ヶ月弱分)は、完全にフライングであったわけだ。
 ところが。
 一回目の購入分が終わりに近づいたころから、暗雲が立ち込めるようになった。
 アタゴロウが食べ渋りを始めたのである。
 やがて、ダメちゃんまで黒缶に難色を示し始めたため、あの手・この手で、何とか食べてもらおうと頑張った。
 鰹節をかけてみたり。
 カリカリを上に載せてみたり。
 少し温めてみたり。
 そうやって、だましだまし、食べさせていた。
 ただし、その間も、玉ちゃんだけは喜んでぱくぱく食べていた。
(いい子だなあ。)
 これにより、彼女の株が急上昇したことは、言うまでもない。
 
 
 そんな生活が続いたら、何が起こるか。
 まず、ウェットフードを分ける際の、玉ちゃんの取り分が大幅に増えた。
 元は、ダメちゃんに一パック、あと一パックをアタゴロウと玉ちゃんで半分ずつ、という分け方だったのだが、気が付いたら、アタゴロウが三分の一パックくらいで、残りをダメちゃんと玉ちゃんで半分ずつ、くらいの配分に変わっていた。
 そうなると、今度は、玉ちゃんのカリカリの摂取量が減る。
 玉ちゃんはもともと、カリカリよりウェット派である。また、食事中の集中力に欠けるせいもあり、食べる量は一番少ない。
 玉ちゃんのごはんは、黒缶に申し訳程度にカリカリをまぶしたものになってしまった。
 黒缶は総合栄養食だから、それでも問題はないのかもしれない。
 だが、オーラルケア的に、それでいいのか。素人にはよく分からない。
 それと並行して、男どもについては、トータルの食事摂取量が少なくなった。
 黒缶は残す。カリカリは従来どおり食べる。それで終わり。
 え?と思ったが、それでも別に騒いだり、盗み食いを始めたりするわけでもない。
 ちなみに、その残った黒缶であるが、その大量の残りを小皿に入れて置いておくと、何だかんだで、いつの間にかなくなっていることが多い。おそらく、玉ちゃんが平らげていたのだろう。
 玉ちゃん、太っちゃわないかな?
 と、心配し始めたところで、新たな事態が発生した。
 玉ちゃんが、黒缶を残し始めたのである。
 
 
 そして、誰も黒缶を食べなくなった――。
 
 
 本当に、その寸前まで行っていたような気がする。
 黒缶を出しても、皆が残して、カリカリばかり食べている。多少は口をつけているようだが、皆が食べ終わって皿を離れた後、残り物を集めた小皿が山盛りになるのだ。
 ヤバい。
 この大量の在庫を、どうしよう。
 もう、寄付品に回すしかないのか。
 でもなあ。
 寄付すると言ったって、宅急便で送るにも、あまりに大量だ。
 もうちょっと、もうちょっと頑張って、宅急便にまとめられるくらいまでは減らさないと。(具体的には、段ボール三箱まで減らそうとしていた。)
 そんなわけで、我が家の黒缶時代の終焉まで、秒読みとなったところで、ふと気がついた。
 
 
 小皿に入れた残りの黒缶。
 気が付くと、食べているのは玉ちゃんだけではなかった。
 しっかり、アタゴロウも食べているのである。
 
 
 全然食べないわけではない。
 だが、大量に残す。そう、全体の半分くらいは残り物に回るのだ。
 ――え?半分?
 
 
 じゃあ、最初から一パックを三匹で分ければいいんじゃないの?
 
 
 と、いうわけで。
 ある日突然、猫山家の食事は、「黒缶は一食に三匹で一パック」というルールに変わった。 
 結果。
 三匹とも完食した。そして、特に苦情もなく、三匹とも満足した様子であった。
 
 
 そして、今日に至る――。
 
 
 現在の、猫山家の給餌の方法。
 まず、三匹の皿を用意する。
 玉ちゃんの皿の中で、黒缶一パックをほぐす。
 ダメちゃんとアタゴロウの皿に、カリカリを入れる。
 ほぐした黒缶の、およそ五分の二を、ダメちゃんの皿の、カリカリの上に載せる。
 残りの黒缶のうち、半分を、アタゴロウの皿の、カリカリの上に載せる。
 玉ちゃんの皿にカリカリを入れ、よくまぜる。
 これで完成。
 
 
 ダメちゃんとアタゴロウの皿に、先にカリカリを入れるのは、黒缶が皿にくっついて食べにくくなるのを防ぐためである。
 玉ちゃんだけ混ぜ混ぜするのは、彼女はウェット派なので、「カリカリを上に載せると食べに来ない、下にすると残す。」という面倒なことになるからである。
 ついでに言うと、玉ちゃんだけは、「皿にくっついたウェットを前足で剥がして、皿の外に掻き出して食べる」という芸を持っているので、混ぜ混ぜしておいても、かなり上手に食べられるのだ。
 今、この方法で、三匹とも文字どおりきれいに完食する。食後の皿はおおむねピカピカになる。
 
 
 思うに、同じ七十グラムと言っても、黒缶は明らかに密度が高い。ほぐす時の手応えはもちろん、見た目にも、ゼリーの透き通った部分がほとんどない。表示された水分含有量はこれまでのフードとほとんど変わらないのだが、どう見ても、他のフードより身が詰まっているように思える。
 もしかしたら、黒缶の一パックは、「海缶」の二パック分くらいの食べ応えがあるのかもしれない。
 それに。
 別のフードの能書きで見たのだが、猫は本能的に、自分に必要な栄養が足りているということが分かるのだそうである。なので、栄養価の高いフードに切り替える際には、ゆっくりと時間をかけて慣らしてさえいけば、元のフードより少ない量でも全く問題なく給餌できるということだ。
 黒缶は、身が詰まっている上に、栄養価が高い。総合栄養食だし、カロリーも高い。
 うちの猫どもも、しばらく黒缶を食べ続けるうちに、「こんなに要らねえや」ということになったのかもしれない。
 ついでに言うと、実は、カリカリの量も、前よりいくらか減らしているのだが、彼等は それで満足しているようである。
 
 
 ところで、前回、ノラ・ブラックホワイトが証言した「物入れの中に色々な種類のフードがある」というのは、別に彼女の妄想ではない。
 どうやら黒缶が駄目らしい、と思った時点で、いろいろなフードを買ってきて試してみた。それがまだ、お蔵入りになったままなのである。
 様々なフードを試してみて、最終的に、最もアタゴロウが喜んで食べたのは「銀のスプーン」であった。それゆえ、次はこれかなと思って、スーパーにある種類は全部、多分、各四パックくらいは買ってきた。
 が。
 ネットで色々調べているうちに、銀のスプーンのドライフードに関する口コミで、「香りが強いため、食べつけると、他のフードを食べなくなる」という投稿を見つけてしまった。
 ウェットの場合も同じとは限らないが、パッケージを見ると、原材料のところに「調味料」とある。やはり、食いつきを良くするべく、何らかの手が加えてあるのだ。
 これは大変。
 うっかり、これを常食にしてしまうと、ますます黒缶を食べなくなってしまうぞ。
 と、いうことで、当面、お蔵入りにした。
 だいいち、そもそもキャットフードに調味料なんて必要なのか?
 そう思い始めたら、突然、やたらと「調味料」が気になって、調味料なしのフードを探し始めたところ、今度は「無一物」に行きついた。
 買ってきて食べさせてみたら、なかなか美味しそうに食べてはいたが、これはゼリー寄せではないので、パックから出すのがちと面倒である。
 また、「一食に黒缶七十グラム」が定着すると、それと比して、「無一物」のグラム数は半端に思えてきた。
 「無一物」は「副食」である。無添加・無調味料なのは非常に良いが、栄養価的には黒缶の方がいいわけだし、黒缶だって調味料は入っていない。そして、安い。
 と、いうわけで、こちらも買い込んではみたが、食べさせるタイミングを逸してしまったものである。
 家主的には、このまま黒缶時代を継続させたい。
 そのためには、他のフードに目移りなんかされちゃ困る、というのが本音である。
 猫メシも、なかなかに難しいのだ。