ダメちゃん、病院へ。

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(八月十二日撮影。今でも横寝するとこんな感じ。)
 

とりあえず、記録として書いておく。

 

 今日、ダメちゃんを動物病院に連れて行った。

 八月の半ば頃からだろうか。どうやらバテてきたな、という印象があった。もとより、歳をとってから食べ物の好き嫌いをするようになり、気が乗らないご飯は残すようになっていたのだが、どうやら食欲そのものも落ちてきたようだった。また、例年になく、家の中でいちばん涼しい北側の出窓に置いた大理石のプレート(昔、母がパン作りのために購入したもの。パン生地をこねたり延ばしたりする際に温めないために使うものなので、猫たちのひんやりプレートとしてもらった。)の上でグデっとしていることが多くなっていた。

 しばらく前から、痩せてきてもいた。とはいえ、元気であったし、毛並みも綺麗だし、相変わらずお腹はタプタプと垂れさがっているので、それが正常範囲内なのか、判断がつかずにいた。年齢的にも食事量からも、多少なら痩せても不思議はないし、それに、もし、異常な痩せ方だったとして、私が怖れていたのは、腎不全だった。腎臓の数値が落ちてきていることを前回の健康診断で指摘されていたからだ。しかし、彼が多飲多尿になった気配はない。これも実は、トイレ砂の消費が早くなったことに気付いてドキドキしてはいたのだが、状況をあれこれ鑑みるに、どうやら、原因はむしろ砂の品質の問題らしいと思われた。水の飲み方は変わっていなかった。

 それともう一つ、この頃は、咳をするようになっていたのだ。咳の音が聞こえた時、最初はアタゴロウだと思った。しかし、ちょっと音色が違うので、あれ?と思ったら、ダメが咳をしてるのだった。風邪っぽいのかなと思ったのだが、頻度は時折ながら、ずっと続いているので、ついにこいつも喘息か、などと思い、先生にジャッジしてもらうために、頑張って動画を撮り貯めているところだった。

 そんなこんなで、彼の健康状態については、危うい感じはしていたのだが、暑かったのと、正直、ちょっと懐具合が淋しかったのもあって、もう少し涼しくなってから健康診断に連れて行こうかと思っていた。

 それが、まだ暑いのに、今日連れて行く気になったのは、二日ほど前から、摂食量が極端に減り、ウンチも出ず、そして元気がないと感じたからである。

 

 ところで、ダメのウェットフードは、一ヶ月くらい前からであろうか、数年ぶりに「カルカン」がローテーションに加わっていた。きっかけは、いつもフードを購入していたペットショップが閉店したこと。歩いて行ける範囲には他に手ごろなペットショップがない。やむなく、とりあえずスーパーでフードを買うことにしたのだが、当然、種類は減る。私が購入している七十グラムパウチでは、黒缶、カルカン、フィリックス、ミャウミャウ、あとは銀のスプーンくらい。これらのうち、これまでのローテーションに入っていた(つまり、食べる)のは、フィリックスとミャウミャウだけ。そこでふと、気が付いた。

 あれ、カルカンって、何で避けてたんだっけ?

 答えは、「カロリーが高いから」である。肥満を指摘され、ダイエット生活に入ったときに、与えるのを止めたのだ。そのまま、なぜやめたのかを忘れ、思い込みで「食べないフード」に分類していただけだったのだ。そのことに、何年かぶりで気付いた。

 そんなわけで、試しにカルカンを三種類ほど購入して食べさせてみたところ、大喜びで食べる食べる。調味料・発色剤入りなのが若干気に入らないが、調味料(アミノ酸等)は黒缶以外の他のフードにもたいてい入っているし、発色剤(亜硝酸塩)は、人間の食べるハムなどにも入っている。昔からある定番のフードだし、総合栄養食だし、まあ当分これで行くか、とローテーションに加えることにした。

 かくして、それぞれスーパーの売り場にあった全種類をひととおり買い揃え、しばらく前から「フィリックス・ミャウミャウ・カルカン」のローテーションが組まれていたところであった。その中で、ダメがいちばん喜ぶのがカルカンであり、出すと常に一気食いであった。

 ところが。

 一昨日出した「カルカン・おさかなミックス」を、ダメはほとんど食べなかった。初めて食べさせたパックだったので、最初は味が気に食わないのかなと思ったが、それにしても、だからと言ってアタゴロウのご飯を狙うわけでもない。これは本気で食欲がないのに違いない。そこで、昨夜は、調子の悪い時用に取ってあった「健康缶パウチ」を出した。これは少し食べた。

 そして。

 極めつけは、昨夜、彼が私の布団に来なかったこと。

 私はダブルサイズのマットレスに寝ているので、暑い時期でも彼は私と一緒に寝る。互いに接触しなくても、隣り合って寝ることができるからだ。

 それが、昨夜、ふと目を覚ますと、布団にいたのはアタゴロウだった。珍しいなと思いながら、そのまま再び眠り、朝、目を覚ましたら、やはりダメがいない。これはどこかに閉じ込めてしまったか、と焦っていたら、ふらりと現れた。間違いない。どこか涼しい所、多分、大理石プレートの上で寝ていたのだ。

 朝ご飯には、健康缶パウチを、水で延ばして与えた。一応口を付けたが、やはり残した。その時点で、彼の病院行きが決まった。

  

 記録の意味で書いているので、前置きばかりが長く、読んで下さっている方には申し訳ない。

 今日は、朝イチに当番でやっている仕事が当たっていたので、とりあえず出勤し、最低限のことだけやって、九時半頃には退勤させてもらった。帰宅し、ダメちゃんをキャリーに押し込んで、久々に動物病院の門を潜った。

 

 たまたま他に患畜がいなかったので、すぐに診てもらえた。

「どうも、痩せたような気がして…」と、診察台に乗せると、

「えっ!?」

 先生と二人、絶句した。

「今の、まさか、ないですよね。」

「もう一回測ってみますか。」

 二回目。それでも私は信じられず、もう一回、測ってもらった。

「五キロ切ってますね。」

 四・九五キロしかなかったのだ。

「一年前は…六・六キロあったのにねえ。」

 カルテを見返しながら、先生も衝撃を受けたようであった。

「夏バテかなあと思っていたんですけど…やっぱり腎臓でしょうか。」

「そうねえ。」

 だが、触診していた先生は、私には全く思いもよらなかったことを口にした。

「あら、お尻が。おっと、肛門腺が破裂してる。パンパンだわ、ほら。」

 実は、私は肛門腺がよく分からないのだ。

「ほらここ。これがお尻の穴でしょ。ここ、腫れてるでしょ。」

 私の目には、むしろ先生の指摘した箇所がお尻の穴の位置で、本当の肛門が脇にズレているようにさえ見えた。そのくらい、肛門腺がふくらんで盛り上がっていたのだ。

「固まってますね。こりゃ痛いわ。」

 膿が固まって詰まり、このために溜まった膿で、パンパンに腫れあがっていたのだ。先生のおっしゃるとおり、一部切れたらしく、血が滲んだ痕があった。

 その膿を出すため、最初は注射器で吸い出そうとしてくれたのだが、

「すごい量だけど、詰まっちゃって取れないわ。仕方がない、鎮静かけましょう。」

「お願いします。」

 私だって、あまり鎮静は嬉しくない。が、そもそも、取れないばかりでなく、彼が痛そうにしているのだ。人間だって麻酔なしでは厳しいよな、と思っていた。

 そこで初めて、私は猫が鎮静剤を打たれる様子を見ることになった。(猫飼い生活も一応二十年以上になるが、実は初めてである。)

「痩せてきてるし、咳も出るなら、このままレントゲンも撮ります?」

「お願いします。」

「血液検査もしましょうか。」

「はい。」

 私としては、基本的に血液検査を想定して病院に連れて行ったのだ。だが、結果から言えば、レントゲン撮影の方が大きな意味を持つことになった。

 

 先生としては、私の話を聞いた時点で、嫌な予感はしていたようだ。咳が出る、と言った時点で、

「喘息でしょうか。」

「ならいいですけど…肺に何かなければいいけどねえ。」

という会話があった。

 結果。

「口で呼吸してたみたいですね。胃に空気が溜まってます。それと肺の辺りにやはり何かありますね。」

 その場で画像を見せてもらい、説明を聞いた。

「こっちが胃。空気溜まってるの分かります?。で、ここが心臓。反対側に、ほら、あるでしょ。」

「黒い所ですか?」

「違う違う。黒いのが空気。心臓の隣に白いのがあるでしょ。」

 確かに、素人の私でもはっきりと分かる大きさの影があった。

「何か、腫瘍のようなものがあると思います。それが気管を圧迫して、それで咳が出るのよ。」

 体の側面から撮った画像を見せてもらうと、その白い影に押されて、気管が一部狭くなっているのがよく分かる。

「そうなると、次はCTを撮りましょうということになると思いますが、あとは、どこまで検査するか…。」

 先生が珍しく言いよどむ。私は、先生が何をためらっているのか、良く分からない。

「検査して分かったところで、どうしようもないということですか?」

「手術できるか分からないですね。」

 というより、多分、できない可能性の方が強いのだろう。素人の私には全く雲を掴むような話で、どう判断したらよいのか分からないのだが、言外にその意味を察することはできる。

 そうなると、ますます、どうするべきか分からなくなる。

「高度医療を選択するか…。どう、しますか?」

 私に言える言葉は、一つだけだった。

「やれるかぎりのことはしてやりたいです。でも、この子が苦しくないように。」

 ああ。

 この台詞、前にも言ったことがある。いつも同じだ。

 多分、それは人間に対しても同じなのだ。ただ、人間と動物が違うのは、動物の場合、通院や検査をすること自体が、彼等に取って大きなダメージになりかねない、ということだ。

 だが、この状態で、一体何を判断しろと言うのか。「影」の正体も分からないのに。あまりにも情報が少なすぎる。

「CTは撮ります。予約をしてください。」

「分かりました。」

 通常の動物病院にはCTの設備はないので、かかりつけ医から検査専門の病院を紹介してもらい、そこに連れて行くのだという。

「費用はこのくらいですが。」

 その病院のパンフレットに、検査費用の目安が載っていた。体重八キロの犬の例で、「腹腔内腫瘍疑い」のCT検査は「八万六千円~十万五千円+税」とあった。

「十万くらいですね。なるほど…」

 先生が「どこまで検査するか」と言った意味が分かった。

「いま、予約します?」

「はい。」

「土日の方がいいでしょ。」

「できれば。」

 その場で予約を入れてもらい、七日土曜日の午後に連れて行くことになった。

 

 彼の現在の不調は、主な原因が肛門腺の詰まり(ペットシーツが一枚、すっかり汚れるくらいに血膿が出た。)によりお尻が痛かったこと、また、歯石が溜まって口も痛かったこと(このためにドライフードが食べられなかったらしい)、発熱、やや脱水気味(これは予想していた。最初から補液してもらう気だった。)、そして、腫瘍により気管が圧迫されて、呼吸がしにくかったことによるものらしい。

 ちなみに、肛門腺の詰まりは、

「それも、腫瘍と関係があるんですか?」

「抵抗力が落ちていたから、というのはあるでしょうね。」

 その肛門腺は、血膿をすっかり絞って痛み止めを打ってもらい、歯石を一部取り、補液を入れ、コンベニア注射を打ち、コンベニアが二週間効くということで、投薬はなし。

 そしてもう一つ、血液検査である。

 麻酔から醒めるまでの間、待合室で待ち、他のお客さんが終わってから診察室に呼ばれた。

「腎臓も肝臓も、異常はないんですよ。」

 数値を説明されても実はよく分からないのだが、正常範囲内であることだけは分かった。私の予想とは逆に、腎臓は大丈夫だったのだ。脱水していたことと、処置のストレスで、上がってしまっている値もあったが、

「血はキレイでしたね。」

 そして、先生が何気なくつぶやいた一言に、私ははっとした。

「でも、レントゲン撮って良かったわ。」

 そう。

 血液検査だけだったら異常は出ず、彼の体内でこんな大変なことが起こっていることなど、分からなかったのだ。

 つくづく、医療というものは、こう言っては何だが、結局は医師の勘と運とに支えられているのだなと思ってしまった。

  

 帰宅後のダメちゃんは、しばらく過呼吸になっていた。

 昨年の足の手術のときもそうだったので、多分病院ストレスによる一過性のものだろうと思い、実際、過呼吸はもう治まっているのだが、なまじ病気が呼吸器系なだけに、見ていてちょっと怖かった。

 その後も、ずっとゴロゴロ言っているのだが、甘えているのか、私に何か要求しているのか、それとも呼吸器の調子なのか、判断がつかなくなって、私の方が少々神経過敏である。

 そして。

 確かに今回の処置は大掛かりだったし、痛かったと思うが、いつもの病院に行っただけで過呼吸になるダメちゃんを、遠い病院に連れて行って三時間近くかかかる検査を受けさせることに、今更ながらためらいが生じているのも事実である。

 食欲は少し戻ったようだ。ウェットフード(健康缶パウチ、チュールもどき、カルカン)を少しずつだが何回かに分けて食べているので、そこそこカロリーは摂ったと思う。歯石を取ったばかりでまだ口が痛いと思うので、ドライフードは出していないが、早くもう少し食べられるようになるとといいなと思っている。

 

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(本日撮影。上から見るとかなり痩せている。)